調剤・曝露対策
2014.06.16

がん研究会有明病院での抗がん薬の安全な取扱い方法

執筆
がん研究会有明病院 薬剤部
杉田 一男先生

 多くの抗がん薬は、がん細胞に対して抗腫瘍効果を示すとともに、正常細胞に対しても細胞毒性を示す。そのため、抗がん薬を安全・安心に取り扱うためには、レジメン管理、処方鑑査、副作用モニタリングなど“患者を守る視点”に立ったリスクマネージメントに加えて、“取扱い者を守る視点”に立ったリスクマネージメントが必要となる。

抗がん薬の曝露を防ぐ方法(適正な調製環境)

 当院では周囲から陰圧に保たれた室内に、100%室外排気のクラスⅡタイプB2型の安全キャビネット4台を設置した環境下で行っている(写真1)。個人防護用具はキャップ、マスク、ガウン、グローブ、シューズカバーを装着している。また閉鎖式接続器具を使用している。

 ガウンは、ディスポーザブル製品で背開きマスク付き、長袖で袖口があり、手袋をはめる時に袖口の上にかぶせられる形状であり、薬剤不透過処理が施されたタイプである(写真2)。

 手袋は、二重手袋をしている。抗がん薬調製に用いる手袋の材質として、ニトリルゴム製とラテックスゴム製が入手できる。手袋の材質については、ニトリルゴム製が推奨される。また、パウダーフリーの製品を選択している。破損や明らかな汚染がなくても調製が長時間に及ぶ場合は、外側の手袋を取り替えている。

 閉鎖式接続器具は、安全キャビネットや個人防護用具の代替品としてみなされない。また、高価なデバイスであるため、揮発性が高い薬剤等に対し優先順位をつけて使用している。看護師の曝露および負担を軽減するために一部の抗がん薬のプライミングは薬剤師が閉鎖式接続器具を用いて行っている。

(写真1)

(写真2)

自施設の「抗がん薬取扱いマニュアル」を作成

 抗がん薬の取扱い全般について示した、国内外のガイドライン1-6)を参考にして、各施設の状況に合わせた「抗がん薬取扱いマニュアル」を作成することが重要である。
 当院の抗がん薬取扱いマニュアルには、抗がん薬調製環境、抗がん薬調製時の防御用具、抗がん薬調製手順、調製後の環境清掃の手順、廃棄物の処理、及び抗がん薬曝露時の対処方法などが記載されている。

定期的な環境モニタリング

 当院では定期的な環境モニタリングとして、Wipe Test(写真3)やUrine Testなどを毎年行い、汚染状況を把握し、曝露対策を立案している。その曝露対策として、清掃マニュアルの改訂 、調製室内の環境整備、個人防護用具の強化、抗がん薬曝露に対する教育・研修などの改善策を実行し、再度Wipe TestやUrine Testなどを行い、調製環境の評価をしている8)(図1)。

(写真3)

(図1)

まとめ

 がん化学療法に携わる医療従事者は、抗がん薬の取扱いに伴う健康への影響を認識し、曝露を最小限にするための知識と技術を身につける必要がある。そして、それは調製者個人だけではなく、他の同僚、医療従事者全体ひいては患者や家族を守ることになる。
 今後、抗がん薬による職業性曝露の危険性が幅広く認識され、実行性と強制力のある抗がん薬取扱いガイドラインが国家レベルで策定されることが望まれる。

【引用文献】

  1. 日本病院薬剤師会監修:注射剤・抗がん薬無菌調製ガイドライン,薬事日報社,2008
  2. 日本病院薬剤師会監修:抗悪性腫瘍剤の院内取扱い指針、抗がん薬 -調製マニュアル第 2 版,じほう,2009
  3. NIOSH ALERT 2004
  4. ASHP Guidelines on Handling Hazardous Drugs
  5. ISOPP Standards of Practice Safe Handling of Cytotoxics
  6. Safe Handling of Hazardous Drugs (ONS)
  7. OSHA Technical Manual : SECTION Ⅳ CHAPTER 2 : CONTROLLING OCCUPATIONAL EXPOSURE TO HAZARDOUS DRUGS
  8. T.Hama et al. Jpn.J.Pharm.Health Care Sci. Vol.35,No.10, 693-700 (2009)