胃がん
2022.09.26

S-1単剤療法Expert編

監修
藤田医科大学 岡崎医療センター 薬剤部 部長
太田 秀基先生

このレジメンの重要事項・ポイント

医師からみたポイント

  • S-1 12カ月投与は胃癌補助療法1)の標準治療のひとつである。韓国からXELOXの補助療法としての有用性が報告2)され、本邦でも後追いで韓国の試験との治療強度の同等性を評価項目として試験が行われた3)。結果L-OHPの補助療法での保険償還となった。S-1にL-OHPの上乗せが可能となっており、ARTIST2試験においてS-1単独群に比べて SOX群が無病生存期間(DFS)を優位に延長したという報告がある4)。stageⅡではS-1の1年間の治療が5)、stageⅢではS-1の併用療法が推奨されている 6)
  • S-1に関しては補助療法の用量強度は術後の体重減少に大きく関連していることが報告7)8)されており、胃癌術後、特に胃全摘術後の体重減少を抑えることは最も注意すべき点であるといえる。そのため、経腸栄養剤の投与や運動による筋力増強などが行われている。

薬剤師からみたポイント

  • S-1単剤療法の主な副作用は、好中球減少症、悪心、下痢、食欲不振、流涙、色素沈着などがあげられる。発現時期や発現時の対処法をあらかじめ説明しておくことが重要である。
  • 投与量については配合剤であるギメラシルが腎排泄のため腎機能低下患者では主薬の排泄が遅れ有害反応が強く現れる危険がある。腎機能低下患者では腎機能に合わせた用量設定が必要になる。また、禁忌薬としてフッ化ピリミジン系薬、相互作用ではワルファリン、フェニトインが知られておりそれぞれPT-INRと血中濃度の確認が必要である。
  • 12カ月間というのは比較的長期であり、味覚の低下、流涙が問題となることが多い。味覚低下に関しては苦み、甘味以外が感覚的に低下することが多く、やや味の濃い食事であれば摂取可能であることを伝えている。流涙は鼻涙管の閉塞に伴うものであるため高度となった場合は眼科に依頼するが、流涙に伴い目を擦る傾向があり抗菌剤の点眼薬や表面保護の点眼薬を用いることもある。
  • 服薬コンプライアンスは治療効果に影響を与える重要な要素である。患者に服薬の重要性を説明しておく必要もある。

看護師からみたポイント

  • S-1単剤療法では骨髄抑制、下痢、味覚障害、色素沈着を中心に指導を行う。特に38℃以上の発熱、激しい下痢や悪心・嘔吐が現れたときには病院へ連絡するように指導している。
  • 副作用の発現時期、発現時の具体的な対処法や注意点も説明を行っている。感染予防として手洗いうがいの励行、下痢に対しては水分の摂取と下痢止めの使用、味覚障害発現時には食事の工夫などを説明している。
  1. Sakuramoto S, et al.: N Engl J Med. 2007; 357(18): 1810-20.
  2. Bang YJ, et al.: Lancet 2012; 379(9813): 315-21.
  3. Fuse N, et al.: Gastric Cancer. 2017; 20(2): 332-40,
  4. S.H.Park, et al.: Ann Oncol. 2021; 32(3): 368-74.
  5. Yoshikawa T, et al.: Lancet Gastroenterol Hepatol. 2019; 4(3): 208-16.
  6. 胃癌治療ガイドライン 医師用 2021年版, 金原出版
  7. 吉川 貴己ほか: 外科と代謝・栄養. 2015; 49(5): 205-11.
  8. Fujiwara Y, et al.: Oncol Lett. 2017; 14(2): 1621-7.

副作用の詳細

副作用の発現率

国内の臨床試験(ACTS-GC試験)1)における術後化学療法としてのS-1単剤療法のグレード3以上の有害事象(n=517)は、食欲不振6.0%、悪心3.7%、下痢3.1%などであった。

  1. Sakuramoto S, et al.: N Engl J Med. 2007; 357(18): 1810-20.

主な副作用

※重篤、頻度の高いものは表内項目をピンク色で示しております。

副作用名 主な症状 薬剤による対策 指導のポイント
悪心・嘔吐
自覚症状でわかる
発現時期の目安
day1-
  • 吐き気
  • 嘔吐
  • 食欲不振
  • 症状が重度のときは、メトクロプラミド、5-HT3受容拮抗薬(グラニセトロンなど)等の制吐剤の投与をする。輸液等の対症療法を行う。
  • 長期にわたって続く吐き気、1日に何回もおこる嘔吐のときは主治医に連絡するように指導。
  • 吐き気・嘔吐・食欲不振時、食べたいものを少しずつ食べる。
  • 熱いものはにおいが強いので、冷ましてから食べる。
好中球減少
検査でわかる
発現時期の目安
day 14-
  • 易感染
    (自覚症状に乏しい)
  • 好中球数1,000/μL未満で発熱、または好中球数500/μL未満になった時点でG-CSFを考慮。
  • 発熱時:抗菌薬(レボフロキサシン500mg/日、シプロフロキサシン600mg/日など)
  • 発熱性好中球減少症発症後は、患者のリスク因子に応じて、ペグフィルグラスチムの使用も検討する。
  • 自覚症状がないため、感染の予防・早期発見が重要。
  • 悪寒・発熱時の対処法と医療機関に連絡するタイミングを確認。
  • 手洗い、含嗽、歯磨きの励行。
  • シャワー浴などによる全身の清潔保持。
  • 外出時はマスクを着用、人混みは避ける。
  • こまめに室内を清掃。
下痢
自覚症状でわかる
発現時期の目安
day 1-35
  • 軟便
  • 水様便
  • 腹痛
  • 症状が重度の場合は、止しゃ薬(ロペラミドなど)の投与、輸液等の対症療法を行う。
  • 下痢がひどいとき(頻回におこる水のような便など)はすぐに主治医に連絡するよう指導。
  • 脱水症状に注意し、水分補給を心がける。
  • 排便時には、肛門を清潔に保つ。
口内炎
自覚症状でわかる
発現時期の目安
day 1-28
  • 口腔内の疼痛・発赤・出血・腫脹
  • 飲食困難
  • 含嗽薬(アズレンスルホン酸など)
  • 口の中に痛みがある、発赤がある、腫れやただれがあるときは、受診時に主治医に知らせるよう指導。
  • 口腔内を清潔に保つ。
色素沈着
自覚症状でわかる
発現時期の目安
day 1-35
  • 主に顔面、爪、手、足など四肢末端の色素沈着
  • 確立した予防法・治療法はない。
  • 抗がん剤の中止により、緩徐に改善されていく。
  • 日焼けにより増悪するため、直射日光を避けたり、日焼け止めクリームを使用したりする。
流涙
自覚症状でわかる
発現時期の目安
day 14-42
  • 目が常に潤む、常に涙があふれる。
  • 視力低下、眼痛、角膜炎など
  • 必要に応じて眼科医へ紹介する。
  • 涙は清潔なハンカチなどで軽く抑えながら拭くようにする。
  • 目を擦らないようにする。
  • 目のまわりの化粧はできるだけ控えるようにする。

※本サイトに掲載されている薬剤の詳細は各製品の電子添文をご参照ください。