2026.03.04

抗がん剤等によるHBV再活性化の対処法

監修
岩手医科大学附属病院
薬剤部 薬剤長
二瓶 哲先生
監修
湘南医療大学 薬学部 教授
佐藤 淳也先生
副作用
HBV再活性化
頻発薬剤
抗CD20モノクローナル抗体、ステロイド、フルダラビン、TKI 等

好発時期・初期症状項目の開閉

発現時期

特徴

  • B型肝炎ウイルス(HBV)感染者および既往感染者において、HBVが再活性化する有害事象である。
  • HBV再活性化は下記の2つに分類される。
    • キャリア(HBs抗原陽性)からの再活性化
    • 既往感染者(HBs抗原陰性、かつHBc抗体またはHBs抗体陽性)からの再活性化
    既往感染者からの再活性化による肝炎は「de novo B型肝炎」と呼ばれ、キャリアからの再活性化による肝炎と比較して予後不良である。
  • 化学療法を受ける造血器腫瘍患者のHBV再活性化率は、キャリアで約48%、既往感染者で約18%である(予防なしのデータ)。
  • 化学療法を受ける固形腫瘍患者のHBV再活性化率は、キャリアで約25%、既往感染者で約3%である(予防なしのデータ)。
  • 抗CD20抗体(リツキシマブ、オビヌツズマブ)、フルダラビンを用いた化学療法、ならびに造血幹細胞移植では、HBV再活性化のリスクが高いことが知られている。一方で、これら以外の抗がん剤に関しては、リスクを正確に評価するためのデータが十分ではない。
  • 電子添文にHBV再活性化に関する注意喚起のある抗がん剤については下表にまとめた。なお、抗がん剤のみでなく、抗がん剤に併用されるステロイド(デキサメタゾン等)においても再活性化のリスク因子となるため注意が必要である。
  • HBV再活性化による肝炎が起きると重症化しやすく、劇症肝炎に至り致死的な経過を辿ることがある。

表 電子添文にHBV再活性化について注意喚起のある抗がん剤、再生医療等製品(2026年1月16日時点)
  • 佐藤先生作成
表 HBV再活性化のリスク
  • ★の数が多いほど高リスクであることを示す
  • 佐藤先生作成
参考:
日本肝臓学会 肝炎診療ガイドライン作成委員会 編.: B型肝炎治療ガイドライン(第4版)2022年6月.
Umemura T, et al.: Clin Infect Dis. 2008; 47(5): e52-6.
Huang YH, et al.: J Clin Oncol. 2013; Aug 1; 31(22): 2765-72.
Paul S, et al.: Ann Intern Med. 2016; Jan 5; 164(1): 30-40.

対処・予防方法項目の開閉

スクリーニング

  • 化学療法開始前には、全例でHBs抗原、HBc抗体およびHBs抗体を測定し、HBVキャリアおよび既往感染者をスクリーニングする。
    HBs抗原:陽性であれば、現在HBVに感染していることを意味する。
    HBc抗体:陽性であれば、過去に感染した、もしくは、現在HBVに感染していることを意味する。
    HBs抗体:陽性であれば、過去に感染し、その後、治癒したことを意味する。HBVワクチンを接種した場合にも陽性となる。

  • 基本的には、これらのスクリーニングの結果によって化学療法を遅らせる必要はない。

対処・予防

HBVキャリア(HBV抗原陽性)

  • 肝臓専門医にコンサルトする。
  • HBe抗原およびHBe抗体、HBV-DNA定量を追加検査する。HBe抗原陽性、HBV-DNA量が高値であることが再活性化のリスク因子となる。
    HBe抗原:陽性であれば、HBVの増殖力が強いことを意味する。
    HBe抗体:陽性であれば、HBVの増殖力が低下していることを意味する。
  • 化学療法を行う際は、すべての症例において治療開始前速やかに核酸アナログ製剤を予防的に投与する。
  • HBV-DNA量が多い症例においては、治療開始前にHBV-DNA量を低下させておくことが望ましい。

既往感染者(HBs抗原陰性、かつHBc抗体陽性またはHBs抗体陽性)

  • HBV-DNA定量を追加検査する。
    HBV-DNA量が20 IU/mL(1.3 Log IU/mL)以上:核酸アナログ製剤を投与開始する。
    HBV-DNA量が20 IU/mL(1.3 Log IU/mL)未満:治療中および治療終了後、HBV-DNA量を定期的にモニタリングする。モニタリング中、肝炎に先行して上昇するHBV-DNA量が20 IU/mL(1.3 Log IU/mL)以上になった時点で直ちに核酸アナログ製剤を投与開始する(図参照)。モニタリングの間隔は1~3か月ごとを目安とするが、化学療法の内容を考慮して間隔および期間を検討する。なお、リツキシマブ・オビヌツズマブ(±ステロイド)、フルダラビンを用いる化学療法および造血幹細胞移植は、HBV再活性化の高リスクであり、治療中および治療終了後少なくとも12か月の間、HBV DNAを月1回モニタリングする。
図 HBV再活性化の経過
  • 二瓶先生作成

  • HBs抗体陽性はHBV再活性化のリスクを低減させる可能性があり、一方HBs抗体陰性はリスク因子となり得る。
  • HBs抗体のみ陽性の場合、再活性化のリスクは低いものの報告例があるため、ワクチン接種歴が明らかな場合を除き、上記の対応を行うことが望ましい。

核酸アナログ製剤の投与

  • 投与開始および投与終了にあたっては、肝臓専門医にコンサルトする。
  • エンテカビル(ETV)、テノホビル ジソプロキシル フマル酸(TDF)、テノホビル アラフェナミド フマル酸(TAF)の使用が推奨される。
  • ETVとTDFは、腎機能障害患者で高い血中濃度が持続するおそれがあるので、クレアチニンクリアランスに応じて投与間隔の調節が必要である。
    ETVにおいては、以下のとおり電子添文に具体的な用法用量の記載がある。
表  腎機能障害患者における用法・用量の目安
  • 注)血液透析日は透析後に投与する。
  • 参考 : エンテカビル錠「トーワ」電子添文
  • TAFはTDFを改良した治療薬であり、TDFで懸念される腎機能障害や骨密度低下の副作用が少ない。
  • ETVは食事の影響により血中濃度が20%低下するので,空腹時(食後2時間以降、かつ、次の食事の2時間以上前)に投与する。
  • 2014年He Huangらの報告によると、HBc抗原陽性またはHBe抗原陽性のリンパ腫患者121名に対してETV(n=61)またはラミブジン(n=60)を投与したところ、ETV群においては、HBVによる肝炎、遅発性のHBVによる肝炎の発現はともに0件であった。
  • ETVの核酸アナログ製剤未治療例に対する成績は良好であり、耐性ウイルスの出現率も低いため、現在核酸アナログ製剤を使用する場合の第一選択薬である。
  • 治療終了後、少なくとも12か月間は投与継続とHBV-DNA定量のモニタリングを含めた厳重な経過観察を行う。この継続期間中にALTの持続正常化とHBV-DNA量の持続陰性化がみられる場合は投与終了を検討する。
参考:
日本肝臓学会 肝炎診療ガイドライン作成委員会 編.: B型肝炎治療ガイドライン(第4版)2022年6月.
田中榮司, ほか. 肝臓 2012; 53: 237-242.
Kusumoto S, et al.: Int J Hematol. 2009; 90: 13-23.
Huang He, et al.: JAMA. 2014; 312(23): 2521-30.

がん専門薬剤師から患者さんへの話し方(わたしの場合)項目の開閉

治療開始前の患者情報聴取

1. HBs抗体の陽性患者への対応(ワクチン接種歴の確認)

  • HBs抗体のみが陽性の患者では、その抗体がHBV自然感染によるものではなく、ワクチン接種によって獲得されたものである可能性がある。
    正確なHBV既往歴を把握するため、事前にワクチン接種歴の有無と時期を聴取することが望ましい。

2. HBVキャリア・既往感染患者の肝疾患評価

  • HBs抗原陽性またはHBc抗体陽性の患者に対しては、過去に肝炎の診断や治療(核酸アナログ製剤 等)を受けたことがあるかを確認する。
  • 肝炎の既往歴がある場合は、腹部超音波検査等の画像検査を実施し、慢性肝疾患(肝線維化や肝硬変 等)の有無と程度の評価を行うことが重要である。

3. HBV再活性化リスク薬剤の服用歴聴取

  • 抗がん剤に加えて、添付文書上でHBV再活性化について注意喚起がなされている薬剤(免疫抑制薬、副腎皮質ステロイド薬、抗リウマチ薬、抗ウイルス薬 等)の服用歴を聴取する。これらの薬剤は、HBV再活性化リスクを増大させる可能性があるため、管理上の重要な情報となる。

HBVスクリーニング結果の説明と患者支援のポイント

スクリーニングの結果を患者に伝える際は、HBVキャリアや既往感染の事実を受け止めがたい可能性があることを理解し、患者の不安に寄り添い、安心して治療に前向きに取り組めるよう支援することが重要である。以下の内容を含めて説明することが望ましい。

1. HBVキャリア(HBs抗原陽性)の場合

  • 感染経路と予防:血液、周産期、性的接触、および家庭内での濃厚接触により、他者に感染させる可能性がある。
  • 家族やパートナーに対するHBVスクリーニング検査と、ワクチン接種が推奨される。

2. HBV既往感染者(HBc抗体陽性かつ/あるいはHBs抗体陽性)の場合

  • HBc抗体陽性かつHBs抗体陽性の場合、HBV感染は治癒している状態であるが、抗HBs抗体が陰性の場合よりも低いとはいえ、化学療法中のHBV再活性化リスクが依然として存在する。
  • HBs抗体のみ陽性の場合においても、以前のワクチン接種により抗体を獲得した可能性が高いが、再活性化の可能性は極めて低いとはいえ、ゼロではない。
  • 核酸アナログ製剤の予防的投与が必要ない場合でも、治療期間中および治療後には長期的なモニタリングが必要である。
  • 性行為や濃厚接触による他者への感染リスクは低いと考えられる。

3. 核酸アナログ製剤を投与する場合

  • B型肝炎ウイルスの再活性化は、劇症肝炎を引き起こしやすく、致死率も高い病態であるが、その大部分は核酸アナログ製剤の適切な投与によって予防が可能である。
  • 治療終了後に遅発性の再活性化も報告されているため、治療期間中のみならず、治療終了後も医師の指示に基づき継続的な服用が必要となる。

+ワンポイント項目の開閉

HBVスクリーニングは全例に必須!

  • ほとんどの固形癌レジメンにおいて、HBV再活性化のリスクは低いと考えられる。しかし、多剤併用、過去の治療歴、治療期間等の影響により、薬剤ごとの正確なリスク推定は困難である。そのため、リスク評価に基づいてスクリーニング対象を限定するのではなく、レジメンの種類に関わらず、化学療法を受けるすべてのがん患者は、治療開始前にHBVスクリーニングを受けるべきである。

免疫チェックポイント阻害薬(ICI)でもHBV再活性化は起こるのか?

  • ICIによる治療を受けた患者においても、HBV再活性化の症例が報告されている。したがって、他の化学療法と同様に治療開始前のHBVスクリーニングを実施し、HBV感染の状態に応じて核酸アナログ製剤の予防投与等適切な対処を講じる必要がある。
  • 特にICI治療では、HBV再活性化による肝炎に加え、免疫関連有害事象(irAE)による肝炎との鑑別が重要である。
  • さらに、irAEの治療で副腎皮質ステロイドを含む免疫抑制療法を行う場合、それに伴うHBV再活性化のリスク管理も重要な課題となる。
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