乳がん
2022.10.25

ビノレルビン単剤療法Expert編

監修
聖路加国際病院 薬剤部 臨床薬剤室
高山 慎司 先生

このレジメンの重要事項・ポイント

医師からみたポイント

  • 本剤を治療で使用できる対象は、『アントラサイクリン系抗悪性腫瘍剤及びタキサン系抗悪性腫瘍剤による化学療法後の増悪若しくは再発例』となっている。したがって、過去の治療歴を十分確認した上で処方発行する必要がある。
  • 一方、本剤は点滴時間が10分以内で終了するため、患者への点滴時間上の身体的な負担が少なく、また、タキサン系薬剤や分子標的薬に比べると低薬価であるため経済的な負担も軽減する可能性がある。

薬剤師からみたポイント

  • 本レジメンは単剤投与であるが、血液毒性の頻度が高く、また全身倦怠感などの症状も出現し易い薬剤である。
  • 服薬指導時には感染のリスクやその対策等について十分に説明しておく。
  • レジメン作成時には投与が10分以内で終了するよう、適切な輸液を選択する。
  • 本剤の催吐リスクは最小リスク1) であるため、必ずしも投与患者全員に事前の制吐剤の設定は必要ではないが、一方で臨床試験2) の結果では嘔気や食欲不振などを出現しているケースもあることから、頓用などで使用する薬剤を予め設定しておくことが良い。

看護師からみたポイント

  • 点滴中の血管痛2)(静脈炎;頻度60%、投与部位反応58%)が出現し易い。したがって、投与時は太い血管から投与、投与終了後は生理食塩水などで、血管内の薬剤を洗い流すといった処置が望ましい。
  1. 制吐薬適正使用ガイドライン 2015年10月 第2版 一部改訂版 ver2.2.(2018年10月),日本癌治療学会.
  2. Toi M et al.: Jpn J Clin Oncol 2005; 35(6): 310-5.

副作用の詳細

副作用の発現率

ビノレルビン単剤療法

主な副作用

※重篤、頻度の高いものは表内項目をピンク色で示しております。

副作用名 主な症状 薬剤による対策 指導のポイント
白血球減少
(好中球減少)
検査でわかる
発現時期の目安
day8-21
  • 易感染
    (自覚症状に乏しい)
  • 好中球数1,000/μL 未満で発熱、または好中球数500/μL 未満になった時点でG-CSF を考慮。
  • 発熱時:抗菌薬(レボフロキサシン、シプロフロキサシンやクラブラン酸/アモキシシリン配合錠など)、内服開始の基準として例えば38度以上の発熱時など、各施設で予め設定し、患者教育をしておくことが望ましい。
  • 自覚症状が乏しいため、感染の予防・早期発見が重要。
  • 悪寒・発熱時の対処法と医療機関に連絡するタイミングの確認。
  • 手洗い、含嗽、歯磨きの励行。
  • シャワー浴などによる全身の清潔保持。
  • 外出時はマスクを着用。人混みは避ける。
  • こまめに室内を清掃。
ヘモグロビン減少
検査でわかる
発現時期の目安
day21-
  • 口唇・眼瞼粘膜などの蒼白
  • 息切れ
  • めまい
  • 頭痛
  • 耳鳴り
  • 貧血傾向が出現した場合には、初期対応として鉄剤の投与を考慮する。
  • Hb 値<7g/dL を目安として赤血球輸血を検討する。
  • 緩徐に進行した場合、自覚症状に乏しいので注意。
  • 体力低下に応じた周辺環境の整備や動作の補助。
  • 四肢の冷えに対する保温。
静脈炎
(表在性)
自覚症状でわかる
発現時期の目安
day1-2, 8-9
  • 点滴部位の痛み
  • 点滴した血管に沿った痛み
  • 静脈炎や血管痛発症時に鎮痛薬を考慮する。
  • 血管外漏出ではないことを確認。
  • 血流の良い太い静脈を選択。
  • 毎回、できるだけ穿刺部位を変更。
  • 静脈炎が発現した場合は、次回投与時に別の血管を選択。
  • 血管を拡張させるため、ホットパックなどで穿刺部位の血管を温める。
悪心・嘔吐
自覚症状でわかる
発現時期の目安
day1-4, 8-11
  • 吐き気
  • 嘔吐
  • 食欲不振
  • 通常、予防的制吐薬の投与は推奨されない。必要に応じてday1 にデキサメタゾンを投与する。
  • メトクロプラミドなどを必要に応じて処方をしておく。
  • 強い不安をもつ患者では催吐リスクが高いため十分な説明が必要。
  • 3〜4日以上の嘔吐の持続、1日以上食事が困難な場合は、医療機関に連絡するよう指導。
  • 悪心・嘔吐時は食事を工夫(水分量が多く、喉ごしのよいものなど)。
  • 嘔吐後は、冷水やレモン水などでうがい。
  • 軽い散歩などの気分転換。
便秘
自覚症状でわかる
発現時期の目安
day1-3, 8-10
  • 排便回数の減少
  • 排便困難
  • 残便感
  • 弛緩性便秘の場合:副交感神経刺激薬(ネオスチグミンなど)
  • 硬便の場合:浸透圧性緩下薬(酸化マグネシウムなど)、膨張性下薬(カルメロースNa など)
  • 腸蠕動低下の場合:大腸刺激性下薬(センノシドなど)、小腸刺激性下薬(加香ヒマシ油など)
  • 直腸便貯留の場合:坐薬(炭酸Na/リン酸Na など)、浣腸下剤(50%グリセリンなど)投与後は、排便の性状などを確認しながら、投与量を調節。
  • 排便回数、性状、量の記録。
  • 水分摂取(温かい飲み物を少量ずつ)。
  • 食物線維の多い食事(腸閉塞の既往がある場合は勧めない)。
  • 適度な運動。
  • イレウスの発現に注意。
感覚性
ニューロパチー
(末梢神経障害)
自覚症状でわかる
発現時期の目安
day8-
  • 四肢のしびれ・痛み・筋力低下
  • 腱反射減弱

確立した予防法・治療法はないが、下記の投与が試みられている。

  • ビタミンB群
  • 疼痛に対しては、三環系抗うつ薬(アミトリプチリンなど)、プレカバリン、ミロガバリンなど
  • 漢方薬(牛車腎気丸など)
  • 少しでも症状に気づいたら、連絡するように指導。
  • 早期発見のため問診、ふらつきなどの動作支障の観察、VAS などの客観的評価を行う。
  • 感覚障害(痺れや痛みの程度)と機能障害(ボタンを留めることができる、ペンで文字を書くといった機能の程度)の評価を行う。
  • 患部のマッサージ・保温、手指の運動(症状が悪化する場合は、中止する)。
  • 感覚低下のため、けが・転倒・熱傷などの対策。

※本サイトに掲載されている薬剤の詳細は各製品の電子添文をご参照ください。