患者さんとともに ~皮膚障害対応~
1.はじめに
皮膚障害は「痒い」「痛い」など身体的な苦痛だけでなく、「容姿が変わる」という心の負担も生じ、その症状や患者の置かれた立場によって、苦痛となる部分や程度が大きく異なる。また、一重に「皮膚障害」といっても、皮疹やびらん、手足症候群、乾燥、色素沈着、爪障害、脱毛など様々な症状がある。原因となる薬剤もEGFR阻害薬をはじめ、マルチキナーゼ阻害薬、タキサン系などの殺細胞性抗がん剤などがあり、最近では免疫チェックポイント阻害薬の皮膚障害にも悩まされているところではないだろうか?
今回は、これらの皮膚障害に対して「薬剤師にできることは何か?」について考えていきたい。“エビデンス”に沿って教科書的な対応策をお話するのではなく、私が経験した実例を紹介しながら、①薬剤師自身の目で見てよく観察する ②看護師と連携する ③患者個々に合わせる ④スタッフと意見交換する、という4つのポイントにしぼって展開していく。
まずは、薬剤師が患者の皮膚障害をどのように観察するか?ということについて。手や顔の状態であればいつでも見ることはできるが、足の裏や背中は?となると、なかなか難しい。私のいる外来化学療法センターでは、看護師が皮膚の観察をする時に呼んでもらい、薬剤師も一緒に立ち会うようにしている。そうすることで、効率良く全身の症状をこの目で確認することが可能となる。
2.症例提示
①薬剤師自身の目で見てよく観察する
-
60代、女性、右腎がん、肺転移、stageⅣ
既往:糖尿病、軽度の知的障害
背景:独居。清潔ケアができていない。糖尿病のコントロールも不良
経過
パゾパニブを約1年半服用後、多発骨転移が出現し、ニボルマブへ変更した。
ニボルマブにて特に有害事象はなく、17クール継続中である。
- X年7月
- 右手首に潰瘍ができ、皮膚科を受診
その後も皮膚科でフォロー中 - 9/29
- 右手首の傷がまだ良くならない
★化学療法の点滴中に薬剤師は面談へ。
この時、どのような関わりをするか?
①患者背景から、清潔ケアに問題があるのではないか?と考え、自宅での清潔ケア、皮膚ケアについて確認をした。
→自宅にはシャワーがなく、桶で汲みながらの入浴。1日おき。
皮膚ケア(皮膚科からの軟膏の塗布など)は、皮膚科の指示どおりに
実施できていた。
②血糖コントロールを確認した。
→血糖コントロールも出来ていない(ご本人の理解不良)。
→食生活の指導と糖尿病内分泌内科との連携を行った。
③他の部位に症状がないか確認をした(irAEを疑って)。
→足にも同じようなものが出来ている。
皮膚科で見せたか確認すると「見せていない」と。
図1のような症状だった。
図1

そこで、既に皮膚科受診後ではあったが、薬剤師から皮膚科へ連絡し、再度診ていただくことにした。
皮膚科カルテ
- 9/29
- 下腿足背部:緊満性水疱散在、潰瘍びらん散在
清潔に。毎日の洗浄処置
水疱性疾患の有無につき採血 →抗BP180抗体 検査
※抗BP180抗体とは?:表皮基底膜部抗原に対する自己抗体で、水疱性類天疱瘡の鑑別に使う - 10/12
- 四肢に水疱びらん散在
左母趾緊満性水疱部より皮膚生検
PSL20mg/日内服開始 - 10/21
- 皮膚生検:水疱性類天疱瘡として矛盾しない
その後
類天疱瘡は1か月後には軽快し、PSL漸減(この間、ニボルマブ休薬)
約半年後、多発肺転移が増悪したためニボルマブ再開→1年以上継続できた
水疱性類天疱瘡の再燃なし
- まとめ
-
この患者は軽度の知的障害があり、自分の症状をうまく伝えることが出来ていなかった。また、清潔ケアもできていなかった。本人の声に耳を傾けることで症状を早期に発見し、早期に治療介入につながった事例。たとえ皮膚科フォロー中でも、おかしいと思ったらもう一度診察をお願いする勇気も必要。
②看護師と連携する
-
60代、男性、肛門管癌(腺癌)、陰嚢穿通、肝転移、stageⅣ、RAS wild
X年3月 人工肛門造設術(ストマ)+陰嚢膿瘍切開排膿術を行った。
腺癌にて通常の大腸がんレジメンで化学療法(Pmab+FOLFOX)開始へ。
経過1
Pmab+FOLFOX 6クール目 ストマ周囲が荒れていると皮膚排泄ケア認定看護師(WOCN)より連絡あり(図2)。
図2

★化学療法の点滴中に薬剤師は面談へ。
この時、どのような関わりをするか?
◯ ストマ以外の皮膚症状と皮膚ケアについて確認した。
→セルフケアはあまりできていない方だったが、皮膚障害は出ておらず、荒れているのはストマ周囲のみだった。
→WOCNの指導内容を確認し、患者の気持ちも汲みながら皮膚ケアの指導をした。
面版の変更と本人の意識改善により、Pmabを休薬することなく治療継続できた。
経過2
BV+FOLFIRIに変更へ →再びWOCNより連絡あり。
ストマ装具のずれによる潰瘍の新生(図3)。
図3

★この連絡を受けた時、薬剤師はどのような関わりをするか?
◯ すぐに外来へ行き、一緒にストマの状況を確認した。
薬剤師から主治医へ連絡し、BV休薬へ。
その後、約4ヵ月かかって改善した。
- まとめ
-
ストマなど、自分たちで見ることができない部分は外来看護師やWOCNらと連携をとり、いつでも相談し合える間柄になっておく。必要な時は、診察前に外来へ出向いて確認し、医師へ報告をする。
③患者個々に合わせる
-
60代、男性、大腸がん、領域外リンパ節転移あり、stageⅣ、BRAF陰性、RAS wild
既往:特になし
背景:自営の町工場で、束ねた紙を持ったり、ネジを回したりする作業あり。
軟膏は商品が汚れるので塗りたくない。
趣味はソフトボールとテニス、日焼けおかまいなし、爪がはがれても平気という方。
経過
- X年6月
- Pmab+FOLFOX開始
4クール目~ ざ瘡様皮疹(G1)
10クール目 踵に大きな亀裂
11クール目 爪囲炎(G2) →Pmab休薬
毎回皮膚ケアの説明をするも、何もしようとしない。
12クール目 爪囲炎・皮膚症状改善したためPmab再開、皮膚ケアせず。
14クール目 亀裂多数、爪囲炎悪化のためPmab休薬、皮膚ケアせず。
★看護師と共に様々なアプローチをするも、生活は変えないというポリシーあり。
この時、どのような関わりをするか?
図4

① 最初は生活スタイルをよく確認し、いかに皮膚ケアを取り入れてもらうかを検討した。
② 患者にいくら説明しても、塗ることがストレスであり、ケアせずともこれまでどおりの生活(仕事&スポーツ)は続けられているため、薬剤師としては見守ることにした。
③ 看護師らは「どうしたらやってくれるようになるか?」「皮膚ケアをせずに休薬したら効果は減弱するのではないか?」と毎回看護カンファレンスで悩んでいた。
→主治医を交えて、今後について話し合った方が良いと判断し、薬剤師が主体となり多職種カンファレンスを開催した。
カンファレンスの内容
治療がよく効いており、領域外リンパ節の転移も消失しCRの状態。
ご本人は決して投げやりではなく、常に前向きな姿勢で自分のスタイルを貫いている。
→主治医より化療は根詰めなくても良いとの判断が出たため、投与間隔を4週毎とし、皮膚ケアをせずに継続できる形で見守っていこうという結論に至った。
その後
4年経過しているが、今でもポリシーを変えず、仕事も趣味も満喫されている。
スタッフも納得した状態で関わることができている。
まとめ
StageⅣの患者では、根詰めて治療を続けることだけが正しいとは限らない。副作用管理を考える時、治療の効果も同時に考える必要があるため、主治医を交えた話し合いは大切である。本症例が2週毎の治療を続けていたら、爪囲炎でスポーツや仕事を制限され、来院毎にスタッフから皮膚ケアをするよう説得され続けただろう。逆にCRの状態でなかったら、進行が早まっていたかもしれない。治療の目的は何か?患者は何を望んでいるか?ということを常に意識し対応することで、どうすべきか?が見えてくると思う。
④スタッフと意見交換する
-
30代、子宮頸がん、傍大動脈リンパ節転移、ウィルヒョウリンパ節転移、頸椎転移
既往:特になし
経過
- X年11/1
- ~ペムブロリズマブ+BV+PAC+CBDCAを開始。
- 11/8
- 近医歯科受診しセフカペンピボキシル処方
- 11/9
- 皮疹出現 抗生剤変更
- 11/12(土)
- 39℃の高熱出現 →ER受診
四肢優位の多形紅斑、口唇全体の水疱、
疼痛を伴う発赤やびらんあり
皮疹の状況から重症の薬疹を疑い、
PSL2mg/kg 開始し、入院へ - 11/14(月)
- 皮膚科受診
→スティーブンジョンソン症候群(SJS)の診断でステロイドパルスへ
※抗がん薬以外の被疑薬(図5)について、DLST提出済(結果待ちの状態)
※DLST(薬剤リンパ球刺激試験)
図5

★病棟担当薬剤師や主治医から副作用の報告と今後の治療の相談があった。
この時、どのような関わりをするか?
① 皮膚科医師へ、DLSTもしくはパッチテストの際の薬剤提供(化学療法関連)について協力することを連絡した。
② 皮膚科と主科および腫瘍内科・関連スタッフでの協議が必要と思われるため、薬剤師から関係者に連絡して、キャンサーボードを開催した。
※化学療法センター薬剤師は中立かつ横断的な立場にあり、関係各所に声をかけやすい。
病棟薬剤師との連携により、副作用情報が集約されやすい。
キャンサーボードの様子
参加者:婦人科医、皮膚科医、腫瘍内科医、病棟看護師、病棟薬剤師、退院調整室スタッフ、ソーシャルワーカー、化学療法センター薬剤師
① 子宮頸がんⅣ期で初回治療として4剤併用療法をしたところ、Day8より皮疹が出て、SJS症候群と診断され、ステロイドパルスを行った。皮膚症状は改善方向で、1クール後の治療効果はPR。がんの病状としては、かなり進行した状態で、初回治療がせっかく効いているので、間髪入れずに次クールに入りたい。TCだけでも再開できないか?(図6)
図6

② 皮膚科医より
PSL2mg/kgで軽快しなかったほどひどかったので、次アレルギーが起きたら命取り。
被疑薬が特定できないままの再投与はリスクが高すぎる。
パッチテストはPSLがoffになってからでないとできないため早くて2か月後。
③ 状況の整理
1.DLSTで何か反応が出た場合、他に治療がないなら抗がん薬は1剤ずつ再開。
2.DLSTで特定できなかったら、パッチテストへ。
これも感度は低く被疑薬を特定できる可能性は低い。
そして、順調にステロイドが漸減できて2か月後。
3.最終的に被疑薬が特定できない場合は、化学療法薬4剤はあきらめるしかない。
4.他の治療(2nd line)に変えるとして、治療の再開はいつできるか?
PSL30mg/日になれば退院OKなので、それからなら再開可能。
図7

キャンサーボードでの結論
1st lineはPRだが、被疑薬が判明するまではいったん2nd line(イリノテカン)でつなぐ。
DLSTで被疑薬が特定できなければ、パッチテストへ。(図7)
- 11/30(day30)
- PSL30mg/日へ。
- 12/10(day40)
- 退院。
- 12/12(day42)
- イリノテカン(150mg/m2 d1,15)投与開始。
- 1/31
- イリノテカン2クール day15施行。
- 2/6
- パッチテスト → セフカペンピボキシルのみ陽性。
- 3月
- 3クール後の評価で新たな骨転移判明。
- 1st lineの治療薬を1剤ずつ慎重に再開へ(順調に再開でき経過は良好)。
- まとめ
-
免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の併用はICI自体の皮疹だけでなく、他の薬剤による皮疹を増悪させる可能性もあることを考えなければならない。
使用できる薬剤が限られている癌腫では、場合によっては治療に行き詰まることがある。
何が最適かは患者個々で異なるため、都度みんなで話し合うことが大切。
3.さいごに
皮膚障害は直接命に関わることの少ない副作用ではあるが、患者のQOLを考えるとその影響は大きい。一部の抗がん薬では皮膚症状が出るほど治療効果も高いと言われる中、どこまでがんばるのか?他の治療はないのか?治療の目的を見失わず、患者の「生き方」を支えることを忘れてはいけない。そこに定まった答えはなく、常にチームで話し合い、患者個々に最適と考えられる対応をしていくしかない。薬剤師は各職種と患者の間における「情報の集約」と「情報の橋渡し」を担う役として、治療方針を調整する。それには、エビデンスに基づいた治療の理解と臨床倫理の理解が求められる。(図8)
図8

【引用】
- 症例1類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む)診療ガイドライン,日皮会誌:127(7):1483-1521,2017
- 大村尚美他:ニボルマブ投与中に生じた水疱性類天疱瘡の1例, 皮膚臨床61(2):154-158,2019
- Yutaka Kumatsuka et al: Bullous pemphigoid induced by ipilimumab in a patient with metastatic malignant melanoma after unsuccessful treatment with nivolumab, Journal of Dermatology,45:21-22,2018
- William Damsky et al: Development of bullous pemphigoid during nivolumab therapy,JADD Case Reports,2:442-444,2016
- 症例2竹之内辰也他:分子標的治療薬による皮膚症状とその対策,新潟がんセンター病院医誌:50(1),50-54, 2011
- 川島眞他:分子標的薬に起因する皮膚障害対策-第2回 皮膚科・腫瘍内科有志コンセンサス会議の報告-, 臨床医薬31(12):1079-1088,2015
- 症例4 重症多形滲出性紅斑スティーヴンス・ジョンソン症候群・中毒性表皮壊死症診療ガイドライン: 日皮会誌126(9)1637-1685,2016
- がん免疫療法ガイドライン 第3版,公益社団法人 日本臨床腫瘍学会
- 皮膚テストの手引き, 公益社団法人 日本アレルギー学会
- 里内美弥子他: 免疫チェックポイント阻害薬と関連する重症の皮疹および粘膜疹の検討と,多職種による皮膚障害発現防止を企図した早期介入システム構築の試行-第5回 皮膚科・腫瘍内科有志コンセンサス会議の報告-,臨床医薬34(6):405-419,2018

