TOWA Mini Clinic Series 注意欠如・多動症 ADHDについて 監修 昭和大学医学部 精神医学講座 主任教授 岩波 明 先生 2018年11月作成

  • どんな症状?
  • どんな向き合い方?
  • どんな治療?
  • どんなセルフコントロール?
  • どんな支援?
  • どんな症状?

    不注意、多動性、衝動性が主な症状です

    ADHD(Attention Deficit Hyperactivity Disorder)は、日本語では「注意欠如・多動症」と表記される発達障害*1で、特徴的な症状は、不注意、多動性、衝動性の3つです。
    不注意、多動性、衝動性の症状があれば、必ずADHDというわけではありません。こういった症状は、程度の差こそあれ、一般的に誰にでもみられるものです。不注意、多動性、衝動性の症状があり、その程度が年齢(発達の水準)に不相応で、自分をコントロールすることがうまくできないため、日常生活、学習、仕事などの面で支障をきたしていると判断された場合がADHDです。
    ADHDは成長とともに落ち着くこともありますが、大人になってからADHDと診断されることもあります。ADHDは、子どもで約5%、大人で約2.5%にみられるといわれています*2
    *1 注意欠如・多動症は注意欠陥・多動性障害ともいわれます
    *2「DSM-5」(2013)より

    症状のあらわれ方には個人差があります

    ADHDの目立つ症状やその程度には個人差があります。家庭や学校、職場などの生活の場によっても症状のあらわれ方が違ってきます。また、子どものADHDでは、多動性・衝動性が目立つ傾向、大人のADHDでは、不注意の症状が目立つ傾向にあります。

    ADHDの症状のあらわれ方
  • どんな向き合い方?

    しつけや育て方、本人の努力不足が原因ではありません

    ADHDは、生まれつきの脳の特性によって、自分の注意や行動をコントロールすることが難しくなっていると考えられています。
    しつけや育て方、本人の努力不足が原因では決してありません。
    本人は怠けていたり、悪気があるわけではないのですが、ADHDによる行動やふるまいで、誤解や非難を受けることがあります。

    早期からの適切な対応が重要です

    ADHD の症状で困っている状態のままでいると、日常生活でのつらい状況が重なっていき、自尊心が低くなりがちになったり、孤立しやすくなったりすることがあります。症状のあらわれ方や状態に応じて、早期から適切に対応することが重要です。

    ADHDの特性は、長所でもあります

    ADHD の特性は、個性であり、長所や魅力にもつながります。たとえば、ADHDの人は、「人なつっこい」「創造性豊か」「好奇心旺盛」「チャレンジ精神がある」「感受性が強い」などといわれています。ADHDのこうした良い面を個性としていかし、力を発揮している人はたくさんいます。
    ADHDとの向き合い方で大切なのは、特性を理解し、受け入れ、個性としてとらえることです。ADHDの特性をなくすのではなく、工夫や対策によって困りごとを減らし、長所や魅力を引き出せるようにしていきましょう。

    あの人も?ADHDをもつ著名人

    ADHD の概念につながる医学論文は、20 世紀に入ってから発表されていますが、ADHDの症状とみられる記録はもっと以前からあり、実は多くの有名人がADHDだったのではないかと考えられています。たとえば、発明王のエジソン、ノーベル物理学賞を受賞したアインシュタイン、古典派音楽家の代表モーツァルト。
    日本人では、織田信長、坂本龍馬なども挙げられています。また近年は、ADHDであることを公表している有名人も多く、ADHDの特性をいかしながら実社会で活躍している人はたくさんいます。
  • どんな治療?

    心理社会的治療から始めます

    ADHD の治療の目標は、自分の特性を理解し、自分の行動をうまくコントロールすることによって、日常での困りごとを取り除き、豊かな社会生活を送れるようにすることです。
    ADHDの治療は、環境調整をはじめとするさまざまな心理社会的治療から開始します。環境調整とは、家庭、学校、職場など、生活の場の環境を工夫することによって、本人の困りごとを減らし、生活しやすくすることです。
    心理社会的治療にはそのほか、本人がADHDについて正しく理解し、対処法を見つけられるように促す心理教育や、対人関係能力や社会のルール・マナーを学ぶことで適切な行動がとれるようにする認知行動療法などがあります。

    子どもの心理社会的治療

    子どもの心理社会的治療では、下図のように、4つの領域をバランスよく組み合わせる治療・支援が重要です。たとえば、子どもへの心理社会的治療の「ソーシャルスキル・トレーニング」では、状況に応じた適切な行動がとれるように社会的なスキルを身につけます。親への心理社会的治療の「ペアレント・トレーニング」では、子どもの行動やADHDの特性を理解し、それらを踏まえてどのような支援ができるかを学習していきます。

    必要に応じて薬物療法を組み合わせます

    心理社会的治療に加え、必要に応じて薬物療法を組み合わせます。心理社会的治療との相乗効果が期待できます。
    ADHD では、脳内の神経伝達物質であるノルアドレナリンやドパミンが不足していると考えられています。薬物治療では、その不足している神経伝達物質を補うはたらきをする薬などを使い、ADHDの主な症状である不注意、多動性、衝動性を改善していきます。
    ADHD の症状が徐々にやわらぎ、日常生活での困りごとが減少していることを本人が実感できると、自信を取り戻すなどして状況が好転していきます。本人が「ADHDと上手につきあっていこう」と前向きに考えられるよう、薬の効果を本人の意欲やがんばりに結びつけていきましょう。心理社会的治療にも取り組みやすくなります。

  • どんなセルフコントロール?

    自分の特性を知り、上手につきあっていきましょう

    ADHD は自分の個性ととらえ、上手につきあっていきましょう。そのためには、まずADHDについて正しく理解することが大切です。その上で、自分の症状や状態、得意なこと、苦手なことを把握しましょう。得意なことは伸ばしていくように、苦手なことは工夫によって対処できるようにしていきます。
    一気に改善することは難しいので、できそうなことから取り組みましょう。あせらず、あきらめず、少しずつ。生活で支障をきたすとストレスがたまりがちですので、ストレスをためない工夫も重要です。

    周囲にサポートしてもらいましょう

    1 人で悩まず、家族、学校の先生、友達、同僚など、身近な人に理解してもらい、サポートしてもらうことが大切です。
    治療に関して気がかりなことがあれば、医師に相談しましょう。
    自分に合った方法で環境調整に取り組みましょう
  • どんな支援?

    家族や周囲のサポートは重要です

    ADHDの人は、不注意、多動性、衝動性の症状のために、日常生活でさまざまな支障をきたしていますので、家族や周囲の理解と協力が不可欠です。ADHDの特徴を理解し、困った言動に対しても感情的にならず、接し方のポイントを理解しましょう。困ったことが起こりにくいように事前に備えることも大切です。

    接し方のポイント
    家族の方へ
    本人の周囲には、家族以外にも、医療機関や保育・教育機関のスタッフ、友達、職場仲間など、サポートしてくれる人はたくさんいます。
    1人で問題を抱え込まず、周囲と連携して取り組んでいきましょう。
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