TOWA Mini Clinic Series 認知症について 監修 国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター 病院長 鷲見 幸彦 先生 2020年2月作成

  • どんな病気?
  • どんな症状?
  • どんな治療?
  • どんな薬?
  • 家族はどんなケア?
  • どんな病気?

    認知機能が徐々に低下する病気で、「加齢によるもの忘れ」とは異なります。

    アルツハイマー型認知症は、正常にはたらいていた記憶力や理解力、判断力などの認知機能が次第に低下し、日常生活にさまざまな支障をきたすようになる病気です。年をとるにしたがってもの忘れが増える、いわゆる加齢によるもの忘れは、病気ではなく、正常な生理現象のひとつです。この場合、たとえば「朝ごはんに何を食べたか思い出せない」というように、出来事の一部を忘れます。一方、アルツハイマー型認知症によるもの忘れは、「朝ごはんを食べたこと」そのもの、つまり出来事全体を忘れます。

    主な認知症の種類
    アルツハイマー型認知症は、認知症の中で最も多い病型です。以前は血管性認知症の割合が高かったのですが、アルツハイマー型認知症が徐々に増加し、2010年代前半の全国調査では約68%を占めています*1
  • どんな症状?

    症状がゆっくり進むのが特徴。早期治療が大切です。

    アルツハイマー型認知症は、症状がゆっくり進んでいくのが特徴です。いつのまにか発症し、気づかないうちに認知機能が徐々に低下して、今までできていたことが少しずつできなくなり、日常生活に影響を及ぼすようになります。薬などによって症状の進行を遅らせることができますので、早めの治療が大切です(「どんな治療?」参照)。

    アルツハイマー型認知症の経過

    記憶力低下などの認知機能障害のほか、さまざまな行動・心理症状があります。

    アルツハイマー型認知症は、記憶力や判断力、理解力、注意力の低下などの「認知機能障害」が現れます。さらに、怒りっぽくなる、気分がふさぎがちになるなどの「行動・心理症状(BPSD*2)」が現れることがあります。 BPSDはすべての患者さんにみられる症状ではなく、患者さんの性格や生活環境、心理状況、周囲の接し方などにも影響されます。
    *2 BPSD:Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia

    アルツハイマー型認知症の主な症状
  • どんな治療?

    本人が快適に暮らせること、家族・介護者の負担を軽くすることが治療の目的です。

    アルツハイマー型認知症は今のところ、記憶力や判断力などの認知機能を元の状態に戻す治療法は見つかっていませんが、進行を遅らせることは可能です。治療は、薬による「薬物療法」と薬を使わない「非薬物療法」を組み合わせて行います。症状の進行を遅らせるとともに、本人や家族・介護者の生活の質(QOL:Quality of Life)の向上を目的としています。本人が住み慣れた環境で本人らしく穏やかに生活でき、また、家族や介護者も負担やストレスが軽くなって快適に過ごせるように取り組みます。

    非薬物療法は脳を活性化し、生活する能力を維持・向上させます。

    非薬物療法は、本人が今できることや興味がもてることをいかして脳を活性化し、生活する能力を維持・向上させます。症状の進行抑制、情緒の安定などの効果が報告されています。さまざまなプログラムがあり、本人の症状に合わせて複数を組み合わせて取り組みます。

    主な非薬物療法
  • どんな薬?

    薬物治療で症状の進行を抑えます。

    アルツハイマー型認知症の症状はゆっくり進行しますが、薬物治療を適切に続けることによって、症状の進行を遅らせることが可能です。本人らしい快適な生活を少しでも長く続けられるよう、早期に治療を開始することが大切です。症状に変化がないようにみられても、実際には進行を遅らせていることが考えられます。本人や家族の判断で服用をやめたり、薬の量を調整しないようにしましょう。医師の指示に従って、治療を継続していくことが大切です。気になる症状が出た場合は、医師または薬剤師に相談しましょう。

    アルツハイマー型認知症の薬は、2つの系統があります。

    一つは、脳内に足りなくなっている物質を補うはたらきをもつ薬です。これまでの研究でアルツハイマー型認知症では「アセチルコリン」という物質が脳内で減っていることがわかっています。これを補うはたらきをもつ薬が3種類あります。3種類は少しずつ性質が異なるためAという薬が合わなくてもBという薬が合うこともあります。また、飲みやすいように液剤になっていたり、飲むことを嫌がる場合には貼付薬(貼り薬)のタイプもあります。

    もう一つは、脳内に入ってくる情報を整理して、必要な情報を伝えやすくする薬です。アルツハイマー型認知症では脳内の情報を受け取るはたらきが過剰に興奮していて、不要な情報まで取り込んでしまうようになっているといわれています。この情報の混乱を整理するはたらきをもつ薬があります。この薬は中等度程度に進行したときに有用といわれています。

  • 家族はどんなケア?

    病気を理解し、本人の気持ちに寄り添いましょう。

    認知症は、誰もがなる可能性がある身近な病気です。1人で悩まず、まずはアルツハイマー型認知症という病気を正しく理解し、受け入れる気持ちが大切です。症状が進行すると、同じ失敗を何度も繰り返すなどして、家族や介護者はイライラしがちですが、本人はその理由がわからないので困惑したり不安になったりします。本人の気持ちに寄り添い、本人の症状に合った接し方をみつけていきましょう。それによってBPSDの症状が抑えられ、困りごとも少なくなります。より良い家族関係を保つことは本人にとっても、ご家族にとっても安心感につながり、お互いより快適な生活を送ることができます。

    安心できる環境をつくり、日常生活の対応を工夫しましょう。

    アルツハイマー型認知症の患者さんにとって、安心でリラックスできる環境は、不安や困りごとが軽減されるのでとても大切です。日常生活の環境や対応を工夫しましょう。

    日常生活の環境、対応のポイント

    ご家族へのメッセージ

    患者さんのケアは大切ですが、ご家族の生活や心身の健康も同時にとても大事です。1人だけ、家族だけで抱え込まず、介護・福祉サービスや地域コミュニティーを積極的に利用し、介護を分担しましょう。困ったことがあれば、かかりつけ医や専門医、ケアマネージャー、医療ソーシャルワーカーなどに相談しましょう。たとえば、患者さんがデイケアサービスを利用しているときに、ご家族の方がご自身の時間や趣味を楽しみ、リフレッシュを心がけてみてください。心にゆとりが生まれ、より良い介護につながるでしょう。
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