IR・投資家情報

統合報告書

統合報告書 2023
トップメッセージ

こころの笑顔を、
実現し続けていくために

代表取締役社長
吉田 逸郎

INDEX

安定供給の使命を守るため年間
175億錠の生産体制へ

政府が新型コロナウイルス感染症の対応を「5類」に移行する方針を決定し、ようやくコロナ禍からの出口が見え始めました。コロナ禍で社会は大きく変化しました。デジタル化の社会浸透や健康意識の向上、SDGsに代表される地球規模の課題解決への取り組みが加速しました。それに加え日本においては超高齢社会を支える社会保障体制の確立や健康寿命の延伸が喫緊の課題です。

年々増え続ける日本の社会保障費は2025年には約140兆円にまで膨れ上がると予測され、その対策のひとつとして、2000年代初めから国がジェネリック医薬品の使用促進を推進してきました。現在、ジェネリック医薬品への変更によって、年間約1兆7,000億円の医療費が削減できており、国や健康保険組合、患者の負担を軽減しています。

当社グループはコア事業であるジェネリック医薬品の製造・販売ビジネスモデルで、医療費抑制への寄与に努めてきました。製品の品質・性能を高めていくことと同時に、安定供給が重要な使命です。しかし、業界内で生じた品質に関する不祥事を発端に安定供給が大きな課題となり、これまで築き上げてきたジェネリック医薬品に対する信頼は低下し、業界全体として責任が果たせない状況が続いています。

当社は国が掲げるジェネリック医薬品の数量シェア目標80%に向けて設備投資を着々と進めてまいりました。
2018年に山形工場の第二固形製剤棟を稼働させ、大阪工場・岡山工場と合わせ2021年度には年間120億錠の生産能力を当初計画通りに確保しました。しかし、不祥事を起こした企業が生産できずに業界全体として安定供給が果たせないという異常事態が起こり、将来的な計画であった山形工場 第二固形製剤棟への追加設備投資を前倒しで行い、現在はプラス20億錠となる140億錠の生産体制を整えました。さらに35億錠の生産が可能な第三固形製剤棟を建設中(2023年11月完成)で、2024年度以降に同175億錠の生産体制が実現する予定です。山形工場では第二無菌製剤棟や倉庫棟も並行して建設を進め、液剤や凍結乾燥製剤の生産能力の増強も行い、ハード面での拡充を図ってまいります。

ソフト面においては、この異常事態はすでに3年ほど続いており、工場で働く社員の負担はこれ以上大きくならないように増員体制を強化し、生産効率向上のための自動化、無人化の設備およびシステムの導入も進めています。市場動向や将来の見通しを常に全社で共有し、安定供給や品質管理という社会に対する大切な役割を自分たちが中心に担うという大きな使命感を持っております。これら当社の生産強化策に加え、業界全体である程度の増産が進めば、数年後には必要とされる生産量の不足は解消できるのではないかと予測しています。

品質保証体制として、すべての工場においてGMP三原則を遵守した手順で製造し、社員に継続した教育訓練を行うことで、一人ひとりが品質に対する高い意識を持って働いています。より厳しい品質保証体制を構築するために国際基準のPIC/S GMPやICHガイドラインも積極的に取り入れ、人為的な誤りを徹底排除する体制を構築しています。また、安定供給体制の維持・強化のため、原薬の複数購買化や製造所の監査等を推進し、グループ全体として原薬製造から製剤製造、物流、販売に至るまで、ガバナンス強化とコンプライアンスの浸透に向けた取り組みを継続しており、2021年11月24日に「当社の法令遵守宣言」を発表いたしました。

その一方で、毎年実施される薬価改定や原材料費および光熱費の高騰など、利益を圧迫する要因に対しては、適切な品質維持や安定供給体制に向けた設備投資などがきちんと評価され、医薬品が適正な価格で販売できる持続可能な薬価制度や、重要な社会インフラとして位置付ける産業構造の見直しを業界として提案していきたいと考えております。

国内外のシナジー効果を活かし
イノベーション創出へつなげる

コロナ禍をきっかけに始まった社会の変化はこれからさらに加速します。当社グループの全体最適をもって長期展望を描き、組織力を活かして実行していく必要があります。そのためには当社グループの理念である「私達は 人々の健康に貢献します 私達は こころの笑顔を大切にします」の実現に向けてグループガバナンスを強固にし、シナジー効果を発揮できる体制へと進化しなければなりません。それぞれの会社が自律組織となって新たな社会課題を発見し、それをグループ総力で解決へと導くことを目指してまいります。

シナジー効果が期待できる分野として、グループ会社である三生医薬株式会社およびグリーンカプス製薬株式会社が有する最先端の製剤技術・カプセル技術があります。東和薬品の製剤技術を融合することで、新しい技術の開発を目指しています。

海外市場においては、スペインのTowa Pharma International Holdings, S.L. (以下、「Towa HD」)を通じて欧州や米国を中心に、世界20か国を超える国や地域で210成分以上のジェネリック医薬品を提供しています。シナジー創出の足掛かりとして、東和薬品とTowa HDの現地工場の視察や経営者間での意見交換、研究者間の人材交流および新製品の共同開発などを積極的に進め、グループとしての企業風土の醸成と組織力強化を図っています。現在直面する供給不安の異常事態においても、Towa HDのスペイン工場の生産力の活用や、製造技術の国内導入などを協議し、安定供給体制のさらなる強化を検討しています。

2022年6月にはTowa HD傘下のスペイン、イタリア、ポルトガルの欧州販売子会社3 社の商号を「Towa Pharmaceutical」へと統一化しました。当社グループとしての一体感の醸成と協業推進を図り、付加価値製品を提供することで、ステークホルダーに対し「TOWA」の明確なブランドイメージを構築し、さらなる事業拡大を推進いたします。

グローバル化の目的は、付加価値の高い東和薬品の製品を広く世界に提供することです。各国や地域では医薬品等の品質、有効性および安全性の確保等に関する法律が異なり、その基準や考え方も常に更新されていきますが、そうした世界の情勢が共有できることも大きなシナジー効果であり、東南アジアなどのこれから需要増が期待される新たな市場に対し、イノベーション創出で貢献するチャンスも広がっています。

「東和品質」を誇りに日本の
産業競争力の一翼を担う

当グループでは、「東和品質」の製品やサービスを提供し、「製品総合力No.1の製品づくり」による技術イノベーションと製品価値の創出に取り組んでいます。当社グループのモノづくりは「地産地消」を理想に掲げています。原薬や中間体については、国内だけでなく世界中からも調達していますが、2010年に原薬・中間体の研究開発および製造する大地化成株式会社をグループに加えるとともに、安全性の高い連続フロー精密合成技術の研究開発を進めることで、「製品の地産地消」という理想に一歩ずつ近づいています。高度な技術力を国内で育て、それを支える人材を育てることで、国が政策として進めるサプライチェーンの強靭化や国力向上にも貢献できると考えています。

「東和品質」とは、世の中に要望・必要とされ、当社グループが持つ最新の技術で改良・改善を重ね続けることで、その時代の最新・最高のものに更新したものです。例えば、水なしでも口の中で溶けて飲みやすいOD錠(口腔内崩壊錠)や、苦みをマスキングする技術、医師や薬剤師が判別しやすい薬剤印字等です。当社グループの付加価値製剤技術の代表的なものとして「RACTAB(ラクタブ)」技術が挙げられますが、これは服用しやすい崩壊性と、普通の錠剤同様に取り扱える硬さを両立した独自の製剤技術です。こうして生まれたきめ細やかな付加価値は、世界の人々の悩みや医療課題の解決に貢献するものと自負しています。

「製品総合力No.1の製品づくり」は製品の品質向上や付加価値創造に関する取り組みのことです。この取り組みに向けて、研究開発に関する施設・設備の拡充を行い、研究開発機能の強化・効率化を進めてまいります。

また、地球環境や社会への配慮を強化するため、2022年4月に環境安全管理部を新設し、グループ全体の環境と安全を一体的に管理運営し、社員および地域社会の環境と安全のさらなる向上を目指しています。気候変動が自社の事業活動や収益等に与える影響については、TCFDの提言に基づき自社事業活動を対象としたシナリオ分析や温暖化ガス排出量削減施策の検討を進めながら情報開示に努めてまいります。こうした取り組みを「グリーン・サステナブル・ケミストリー」産業の立ち上げにつなげ、日本の産業競争力の向上にも貢献したいと考えています。

ヘルスケア産業の中で確かな
ポジションを確立する

当社グループは今、2021年度にスタートした「第5期中期経営計画2021-2023 PROACTIVE Ⅱ」の最終年度を迎えています。
コア事業としてのジェネリック医薬品事業の進化
海外市場での拡大と成長
新たな健康関連事業への展開
技術イノベーションと製品価値の創出
働きがいのある環境づくりと人財育成
を基本方針として事業を推進してまいりました。

第5期中計はサブタイトルとして「第3次成長期の幕開け」を掲げ、グループ全社が「ジェネリック医薬品業界の中で確かなポジションを確立する」から「人生100年時代に向けた総合ヘルスケアカンパニー」と事業を広く展開しました。当社グループは「『健康長寿社会』に対応した、医療から未病のケア・予防までカバーする未来への実現」を重要課題として認識し、「人々の健康に貢献する」という企業理念の基、新たな技術の獲得および新しい知見や技術との融合を図りつつ、これからの医療体制に適応した健康関連事業の創出に積極的に取り組んでいます。

国は団塊の世代が75歳(後期高齢者)となる2025年を目途に「地域包括ケアシステム」の構築を進めています。Society5.0が実装された地域社会は、あらゆるものがネットとつながるIoTやAI(人工知能)、ビッグデータ等の先端技術により医療従事者と生活者が容易に情報共有し、医療従事者の適切で効率的な診療・介護や、生活者の健康増進を可能にするプラットフォームづくり(病院・薬局・介護施設等の各施設におけるデータの連携や共有)を基本としています。

その実現のカギを握るのは個人の健康情報(PHR:パーソナル・ヘルス・レコード)や電子医療健康記録(EHR:エレクトリック・ヘルス・レコード)を活用したプラットフォームです。医療費抑制だけでなく、健康状態から病気になるあらゆる段階でのアプローチを可能とします。そして、高齢者が可能な限り住み慣れた地域で自分らしい暮らしを続けることができる地域包括ケアシステムの実現に大きく寄与したいと考えています。

当社は、TIS株式会社が提供するクラウド型地域医療情報連携サービス「ヘルスケアパスポート」を協業販売しています。これからの医療機関は地域や機能によって役割が明確化され、かかりつけ医を中心とした医療提供体制へと変革していくことが予測されます。ヘルスケアサポートは、医療従事者と生活者がカルテや処方内容・健康情報を双方向で共有することで、生活者・病院・診療所・薬局等に点在していた医療・健康情報の効率的かつ効果的な利活用を可能にします。すでに複数の医療機関や都道府県で導入の検討を進めていただいており、利用者のニーズに合わせた追加機能の開発を行っています。これらの製品・サービスや連携が拡充していくことで、地域包括ケアシステムの基盤になると当社グループが考えている健康情報プラットフォームの構築につながります。

また、2022年9月にスマートフォンでご利用いただける服用支援ツール「Hanaサポート(ハナサポ)」のサービスを開始しました。服薬時間のお知らせやその記録に加え、薬局や薬剤師とコミュニケーションができる機能を搭載した患者様用アプリと、そうした記録を管理する薬局用のWebサービスを展開しています。ヘルスケアパスポートとの連携を開発中で、両者が服薬状況を正確に把握することで、飲み忘れや重複服用を防ぎ、効果的な服薬の支援を目指します。

超高齢社会における大きな課題は、「未病」の段階で異常を早期発見することです。当社は独自の検査サービス(プロトキー検査)を有するプロトセラを子会社化し、大腸がんリスク、すい臓がんマーカーの2種類の検査を展開しています。認知症進行予防効果が期待される植物由来成分「タキシフォリン」の研究も国立研究開発法人国立循環器病研究センターと共同で進めています。また、株式会社FOVEが開発した目の動きをVR(仮想現実)で追跡することで認知機能を評価する「認知機能セルフチェッカー」等の取り扱いをスタートさせ、Society5.0をイメージしたさまざまな先端技術を取り入れ、健康寿命の延伸に多彩な分野からアプローチします。

社員が自らのキャリアを描き
多彩な活躍ができる環境へ

第5期中計の基本方針のひとつである「働きがいのある環境づくりと人財育成」については、社員の働き方の多様性を尊重し、一人ひとりが働きがいを感じる職場環境へ整備することを目指しています。当社グループのサステナブル経営の源泉は人財にあると考えています。社員一人ひとりが企業理念のもとに働きがいを感じながら事業を展開することで社会の変化を感じ取り、新たな価値を生み出すことができます。

これからさらにDX化やAI(人工知能)が社会や仕事に浸透していく中、作業の多くはデジタル技術に置き換わります。社員一人ひとりが自らのキャリアを見据え、その実現に向けて主体的・計画的に行動することが働きがいにつながると考え、キャリア開発部を新設いたしました。一人ひとりの社員の入社から退職するまでのキャリアプランに着目し、その形成を支援するための面談を実施しています。会社の中のポストに就くための要件を明確化し、目標とするポジションになるために必要な経験や知識、能力をそれぞれが身に付けられるよう整備しています。

現在、2024年度からスタートする第6期中期経営計画の構想に向けたディスカッションを進めています。そこでは2040年の社会のあるべき姿を想定し、コア事業のジェネリック医薬品の開発や製造販売を中心に、医療業界や社会保障制度の未来を描き、バックキャストで事業計画を設計しようとしています。新規市場や新規事業への参入もますます活発化しますので、社員は多彩な能力を発揮するチャンスが広がります。

世界の人々に「こころの笑顔」を
地域活性化の挑戦「百年計画」

2021年の創業70周年を機に、社員一人ひとりがさまざまな社会課題と向き合うために「当社グループの根本的な考え方、あるべき姿」を社内に向けて発表しました。その基本は「私達はこころの笑顔を大切にします」という当社グループの企業理念に基づきます。「こころの笑顔」とは、身体が健やかでこころが満ち足りた状態でいられることにより、心底(しんそこ)から湧き上がるよろこびが笑顔としてあふれてくる様(さま)を表します。あるべき姿は「いつの時代でも、どの地域でも、その地域に住んでいる人々に必要とされ、必要とされる製品・サービスを提供する会社であり続ける」ことです。

こうした理念をグループとして共有し、揺るぎないものにするためには長期ビジョンの基に進める象徴的な取り組みが必要です。当社は「東和薬品グループ百年計画」のひとつとして、「モンゴルでの甘草栽培」に挑戦しています。モンゴルとの関わりは2009年に当社代表取締役社長として所属する門真市のロータリークラブでモンゴルの孤児院に寄付したことで現地を訪問したことがきっかけです。広大な土地に自分たちと見た目がよく似ている民族が当時で260万人以下しかおらず、有限である地下資源の採掘による国土の砂漠化やそれによる気候変動が大きな課題となっていましたが、それが国の経済を支える重要な産業でもありました。

モンゴルでの甘草栽培の様子(2023年8月)

甘草の根およびストロンは、貴重な医薬品原料となるグリチルリチン酸を含みます。

一時的な寄付ではなく、持続可能な支援を検討した当社は、モンゴルには薬の原薬に使用する「甘草(かんぞう)」が自生していることに着目しました。甘草は漢方としても利用され、薬以外にもカンゾウ抽出物は甘味料や食品用、化粧品用等として幅広く利用されています。その栽培計画に成功すれば、持続可能な開発としてひとつの産業が発展し、モンゴルの人々の暮らしを向上させ、「こころの笑顔」を増やすことにつながるのではないかと考えました。また、甘草栽培により、土地の砂漠化を防ぎ、黄砂の大気拡散も抑制できると考えております。

2014年から自生地を訪ねるなど、現地の状況把握をスタートさせ、2017年にモンゴル東部のヘンティー県ヘルレン郡に約1,000ヘクタールの土地を確保しました。コロナ禍に取り組みが停滞したものの、2021年9月には甘草の苗600個を試験的に植え付けすることができました。ヘルレン郡長からの賛同も得て、2023年には地域住民の皆さんも積極的に参加し、育苗や栽培にご協力いただきました。本格的な栽培スタートは2026年を予定しています。甘草は施肥から収穫までが約7年周期のため、毎年収穫できるよう土地を7区画に区分し、年間最大で500トンの収穫量(100ヘクタールを一度に植える前提)を計画しています。

壮大な計画ですが、まずモンゴル国内での事業が自立経営となるよう支援し、将来的に原薬への加工や輸出といった事業領域の拡大につながれば、地域社会や地域経済の活性化として大きな意義を持つ取り組みになると考えています。産業として確立するには100年かかるかもしれませんが、人々のこころの笑顔のために、いつの時代でも、どの地域でも、その地域に住んでいる人々に必要とされ、必要とされる製品・サービスを提供する会社であり続けることを、グループ全社が迷わず事業を進めていくための象徴として、この活動を続けていきたいと考えています。

当社グループはこうした健康に関する事業を通じて人々の「こころの笑顔」をかなえられるよう、これからもあらゆる健康関連事業を日本および世界中に展開していくことに努めてまいります。引き続き皆さまのご支援を賜りますよう心よりお願い申し上げます。

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