IR・投資家情報

統合報告書

統合報告書 2025
トップメッセージ

健康の先の未来を創造し
いつの時代にも
必要とされる企業へ

代表取締役社長
吉田 逸郎

INDEX

社会的使命を果たす生産体制へ
2026年度に年間175億錠を実現

国内ジェネリック医薬品業界に対して、国が進める「後発医薬品の安定供給等の実現に向けた産業構造のあり方に関する検討会」で産業のあるべき姿が議論され、2024年5月に品質の確保された医薬品が安定的に供給できるよう①製造管理・品質管理体制の確保②安定供給能力の確保③持続可能な産業構造の実現を目指す④企業間の連携・協力の推進、などの方針が示されました。

国が2000年代初めからジェネリック医薬品の使用促進を進めた結果、その割合はすでに数量シェアの目標値である80%を超えています。その一方、2020年に発覚したジェネリック医薬品企業における品質問題を起因とした一連の供給不安は未だ解決には至っておらず、国は製造管理・品質管理・安定供給に努める企業を評価する制度の導入を進め、少量多品目構造解消に向けた後発医薬品業界の再編を推進しています。

当社グループの国内ジェネリック医薬品事業においては、業界全体として安定供給が果たせないという異常事態に対し、将来的な計画であった山形工場 第二固形製剤棟への追加設備投資を前倒しで行いました。プラス20億錠となる年間140億錠の生産体制を整え、さらに同工場 第三固形製剤棟を2023年11月に建設、2024年4月より稼働を開始しました。2026年度に3工場の年間生産能力175億錠を実現すべく、2025年度はその中間として東和薬品単体の年間生産数量162億錠を計画しています。また、山形工場 第二無菌製剤棟の完成により、バイアル製造ライン(液製品、凍結乾燥製品)の生産能力も年間450万本から同1,000万本に増強する見込みです。ただ、工場が完成しても製造や品質の管理、安定的な供給体制を整えるにはさまざまな工程での確認作業が必要です。大阪工場や岡山工場からベテラン社員が集結するなどあらゆる部署が協力体制を敷き、少しでも早く安定供給に寄与できるよう全社協力体制で挑んでいるところです。

社会からの要請に応えるためには、年間175億錠体制と同時に生産効率の向上と製造・品質管理のさらなる進化も目指す必要があります。すでに工場業務の負担を減らす自動化や省人化のシステム導入などスマートファクトリー化の整備が進んでいます。製造管理および品質保証体制においては、以前より導入しているMES(製造実行管理システム)やLIMS(試験情報管理システム)、マスターコントロール社のQMS(品質マネジメントシステム)により製造や品質管理の精度を高めてきましたが、その全てをDX(デジタルトランスフォーメーション)化して統合的なデータ管理ができる体制へと進化させる取り組みを進めています。データの手入力など間違いが起こりやすく非効率な作業を徹底的に省き、生産性の向上と信頼性の高いデータ構築やその統合的な管理により、製造管理・品質管理の水準をさらに高めていくことを目指します。

信頼性の高いデータを運用することで人の役割も変わります。正確性が求められる作業は機械やシステムに任せ、データ管理やその分析など、より高度な判断を担うことが大切になります。当社では、各製造所においてGMP三原則を遵守した手順を設定し、常態的な教育訓練により、一人ひとりが品質に対する高い意識を持って働いています。より厳しい 品質保証体制を構築するために国際基準のPIC/S GMPやICHガイドラインも積極的に取り入れた体制を構築しています。また、安定供給体制の維持・強化のため、原薬の複数購買や製造所の監査等を推進し、グループ全体として原薬製造から製剤製造、物流、販売に至るまで、ガバナンス強化とコンプライアンスの浸透に向けた取り組みを行っています。こうした仕組みを一人ひとりが深く理解し、さらに高い水準で運営することが重要となるため、リスキリングを含めた教育体制も充実させていきます。

また、安定供給への道筋のひとつとして新たな協業体制の検討も進めています。ただ、当社の製造管理や品質管理の思想や体制に共感いただける企業へ委託生産をお願いすることが重要で、お互いに納得のいく体制で生産量の増加を実現するにはやはり5年から10年の期間が必要です。まずは市場動向や将来の見通しを常に全社で共有し、社会インフラとしての役割を果たすため、自分たちが中心となり安定供給や品質管理を推進していくという使命感で取り組んでいくことが最優先だと考えています。

「東和品質」を追求し続けることで
社会の課題解決に貢献します

イノベーション創出で「東和品質」
を世界に示す

生産や品質面で新たなシナジー効果を発揮するのが、グループ化5年目を迎えたTowa PharmaInternational Holdings, S.L.傘下のTowa Pharmaceutical Europe, S.L.です。スペインにある同社のマルトレージャス工場は欧州医薬品庁(EMA)や米国食品医薬品局(FDA)の基準に準拠しており、品質面において優れた生産技術を有するのが強みです。2024年2月には新たに日本国内向けに製造することの認定を受け、日本で販売するエソメプラゾールカプセル10mg/20mg「トーワ」の製造を開始し、日本の安定供給にも貢献しています。同工場は製造効率を高める製造機器設備などを活かすさまざまなノウハウを有し、東和薬品は欧州にはない製剤への付加価値というノウハウがあります。こうした生産技術や研究開発をはじめとして各部門を交流させながら海外医薬品事業を加速させ、グローバル化を深化させていく予定です。

海外医薬品事業では現在、欧州や米国など世界30カ国以上で300製品以上のジェネリック医薬品を提供していますが、世界で存在感を示すには「製品総合力No.1の製品づくり」を目指す「東和品質」の追求がカギを握ると考えています。水なしでも口の中で溶けて飲みやすいOD錠(口腔内崩壊錠)や、苦みをマスキングする技術、医療従事者の皆さまが判別しやすい薬剤印字等があります。当社グループの付加価値製剤技術の代表的なものとして「RACTAB(ラクタブ)」技術が挙げられますが、これは服用しやすい崩壊性と、普通の錠剤同様に取り扱える硬さを両立した独自の製剤技術です。患者さんにとって飲みやすく、医療従事者の皆さまにとって区別しやすいなど、世の中に必要とされ、当社グループが持つ最新の技術で改良・改善を重ね続けることで、その時代の最新・最高のものに更新する製品づくりが「東和品質」を支えています。

技術イノベーションと製品価値創出に向けた取り組みとして、「ニトロソアミン問題への挑戦」を掲げています。発がん性が懸念されているニトロソアミン類が医薬品へ混入してしまう問題は、世界の医薬品業界が抱える深刻な課題です。当社の原薬合成を担当する化学者(ケミスト)たちが中心となり、混入リスクを確実に評価できる分析方法として、原薬で評価する「東和アミンアプローチ」を開発しました。2024年12月には、医薬品中のニトロソアミン類の混入を管理する一斉分析法に関する研究成果が、米国化学会学術誌『ACS Omega』に掲載されました。また、2025年8月には、NOxフリー環境下でニトロソ・アトモキセチン混入量を許容限度値以下に低減した研究成果が、米国化学会学術誌『Org.Process Res. Dev.』に掲載されました。現在、製造工程への実装に向けて専門チームを構成して取り組んでおり、「東和品質」を世界に示すことに大いに貢献すると期待しています。

また、イノベーションという観点からジェネリック医薬品の可能性を広げる取り組みにも注力しています。例えば、医薬品の用法および用量の改善に対する取り組みとして、2025年5月に日本初の持続放出性リバスチグミン経⽪吸収型製剤-週2回製剤-「リバルエン®LAパッチ25.92mg/51.84mg」を、当社で初めて新医薬品として製造販売承認を受けた製品として発売しました。貼付剤は服薬状況が可視化されることで、服薬管理を行う介護者等の負担軽減が期待されております。既存薬では1日1回の貼付が必要になっており、当社製剤が週2回の貼付となることで、持続的な認知症ケアの実現および患者さんやご家族、介護に関わる人々に、より良い生活の質を提供することに貢献できると期待しています。

さらには、ドラッグリポジショニングにも取り組んでおります。ドラッグリポジショニングとは既存の薬剤を転用して新たな疾患の治療薬として開発する方法のことです。既存薬で安全性に関する臨床データが十分に蓄積されているため、そのデータを活用することで従来の新薬開発に比べて研究開発期間やコストを抑えられる可能性があります。当社は2025年6月時点で314成分732品目の製品を有しており、希少疾患などの治療薬開発に向けて、その活用の可能性を研究することは当社の使命だと考えています。2025年6月より、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)らと共に、家族性アルツハイマー病を対象とし、iPS創薬によって見出されたブロモクリプチンの企業治験を開始いたしました。

Towa INTでの記念イベントの様子

社内での技術発表会の様子

「新たなステージに向けた挑戦」を
掲げ『健康長寿社会』の実現に
貢献する

当社グループは2024年度に「第6期中期経営計画2024-2026 PROACTIVE Ⅲ」をスタートさせ、① 国内ジェネリック医薬品事業の新たなステージに向けた進化②新規市場・新規事業の基盤確立とグループシナジーの実現③持続的成長を支えるサステナビリティ経営の強化と基盤の整備、という基本方針を実践しています。第6期中計はサブタイトルとして「新たなステージに向けた挑戦」を掲げ、グループ全社は、これからの医療体制に適応した健康関連事業の創出に積極的に取り組み、「『健康長寿社会』に対応した、医療から未病のケア・予防までカバーする未来への実現」に向けてさまざまな取り組みを進めています。

新たな健康関連事業では、TIS株式会社が提供するクラウド型地域医療情報連携サービス「ヘルスケアパスポート」を協業販売し、国が構築を目指す「地域包括ケアシステム」の実現に貢献するため、その普及に努めています。「ヘルスケアパスポート」はかかりつけ医やかかりつけ薬局、病院が連携し、一人の患者さんの情報を共有することで適切な医療の提供を実現するもので、在宅医療や介護施設などとの多職種連携に有効なツールです。

2025年2月に東邦大学医療センター佐倉病院(千葉県佐倉市)、2025年9月に千葉脳神経外科病院(千葉県千葉市)での活用事例についても発表いたしました。当社は、個人の健康情報(PHR:パーソナル・ヘルス・レコード)や電子医療健康記録(EHR:エレクトリック・ヘルス・レコード)を活用した「ヘルスケアパスポート」を中心に「エクサ・ポート」構想の実現に取り組んでまいります。病気になる前(未病)の状態の時にデータを分析して食事や運動などのサポート情報を提供するもので、健康維持・増進のための製品やサービスを提供します。また、ソフトカプセル技術を活用したサプリメントや健康食品の開発に強みを持つグループ会社の三生医薬株式会社と連携し、東和薬品オリジナル製品の共同開発にも取り組んでいます。超高齢化に突入した社会において、一人ひとりに寄り添った健康サポートが大きな課題となっています。高齢者が可能な限り住み慣れた地域で自分らしい暮らしを続けることができる地域包括ケアシステムの実現に大きく寄与したいと考えています。

働きがいのある環境づくりと
人財育成にDX化をかけあわせ
持続的成長を実現

DX化で進める働きがいのある
環境づくり「仕事の見える化」で
成長促す

第6期中計の基本方針のひとつである「持続的成長を支えるサステナビリティ経営の強化と基盤の整備」を図る上で、「働きがいのある環境づくりと人財育成」が重要なテーマとなります。DX化やAI(人工知能)が仕事に浸透していく中、作業の多くはデジタル技術に置き換わります。人の役割は会社や仕事の全体像や描く未来を理解し、データを読み解いて判断することになります。

以前より「作業」ではなく「仕事」をすることの大切さを社員に伝えていますが、それに加えて、自分の業務の意味合いが分かった上で仕事をすること、その中でこれから自分がどのようなスキルを身に着けていきたいのか、どのようなキャリアにしていきたいのか考えていくことも大切だと感じています。そのような思いから人材研修センターを立ち上げ、リスキリングを推進していますが、まだまだこれから具体的な施策を充実させていく必要があると考えています。

製造工程でもシステム導入によるDX化は進んでいます。作業の多くは機械に置き換わっていくため、人の役割はGMPや国際基準を理解し、データを読み解いて、高い品質の製品をより効率的に生産するためには何をすべきか判断することになります。現在、工場で働く社員に対して原価を意識することを教育しています。原価に対する自らの生産性を考えて働くことでモチベーションが明確になり、会社もそれを公正に評価することができます。こうした「自らの仕事の見える化」により、常に眼前の目標や自らの将来のキャリアを見据えることができ、その実現に向けて主体的・計画的に行動することが働きがいの向上につながります。

「こころの笑顔」を次世代につなぐ
地域産業創出への挑戦「百年計画」

当社は、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)において「Better Co-Being」パビリオンにブロンズパートナーとして協賛しており、同パビリオンが主催する「未来と健康のための高校生ビジネスコンテスト supported by 東和薬品」を開催しました。当社グループの根本的な考え方、あるべき姿の基本は「私達はこころの笑顔を大切にします」という当社グループの企業理念に基づきます。「こころの笑顔」とは、身体が健やかで、こころが満ち足りた状態でいられることにより、心しんそこ底から湧き上がるよろこびが笑顔としてあふれてくる様さまを表します。あるべき姿は「いつの時代でも、どの地域でも、その地域に住んでいる人々に必要とされ、必要とされる製品・サービスを提供する会社であり続ける」ことです。

ビジネスコンテストでは、「Better Co-Beingとこころの笑顔を実現するための地域社会づくり」をテーマとして、これから日本の未来を担っていく高校生の皆さんから、フレッシュなビジネスアイデアを募集しました。ビジネスコンテストにした理由は、ビジネスとして成立するアイデアを求めたのではなく、どうすれば自らが住む地域が活性化し、それを実現するためには自分たちがどんな行動を起こすべきかを考えてほしかったからです。国が進める「地域包括ケアシステム」も地域が活性化する仕組みとセットになることで地域に浸透します。この機会が、全国各地の高校生たちが10年後、20年後の「こころの笑顔」を実現するために行動を起こす、ひとつのきっかけになることを願っています。

また、当社の理念を体現するシンボリックな取り組みとして進める「東和薬品グループ百年計画」のひとつとして「モンゴルでの甘かんぞう草栽培」への挑戦を2014年より始動しています。モンゴルでは国の経済を支える産業の中心が、有限である地下資源の採掘です。国土の砂漠化やそれによる気候変動が大きな課題であり、当社はモンゴルに自生し、食品、化粧品だけでなく医薬品の原料としても使用される「甘草」を新たな産業になるよう導く取り組みを始めています。モンゴル東部のヘンティー県ヘルレン郡に約1,000ヘクタールの土地を確保し、いまでは近隣住民の協力を得ながら少しずつですが、計画的な甘草の栽培に向けた準備が進んでいます。いずれ収穫物を販売し、その種で新たに甘草を栽培するという無限の緑の資源を活用することができれば、持続可能な開発としてひとつの産業が発展し、モンゴルの人々の暮らしを向上させ、「こころの笑顔」を増やすことに貢献できると考えています。地域や時代を超えて人々に必要とされる製品・サービスを提供する会社であり続けるための象徴として、この事業を続けていきたいと考えています。

当社グループはジェネリック医薬品事業を中心に、多彩な健康関連事業を通じて人々の「こころの笑顔」を増やせるよう、これからも日本および世界中に事業を広げていくことに努めてまいります。引き続き皆さまのご支援を賜りますよう心よりお願い申し上げます。

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