IR・投資家情報

統合報告書

統合報告書 2024
トップメッセージ

健康の先の未来を見据え、
新しい時代へ挑戦

代表取締役社長
吉田 逸郎

INDEX

ジェネリック医薬品業界の変革期に
社会的使命を果たす生産体制へ

いま、国内ジェネリック医薬品業界は大きな変革期にあります。2025年には約140兆円にまで膨れ上がると予測される日本の社会保障費への対策として、2000年代初めから国がジェネリック医薬品の使用促進を進めた結果、その使用割合はすでに数量シェアの目標値である80%を達成しています。一方、2020年に発覚したジェネリック医薬品企業における品質問題を起因とした一連の供給不安により、ジェネリック医薬品や業界に対する信頼は低下しました。2023年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針2023)」には「医療上の必要性を踏まえた後発医薬品をはじめとする医薬品の安定供給確保、後発医薬品の産業構造の見直し」の強化を図ることが記され、同年7月から「後発医薬品の安定供給等の実現に向けた産業構造のあり方に関する検討会」で産業のあるべき姿について議論が進められています。

当社グループの国内ジェネリック医薬品事業においては、前中期経営計画に基づき、数量シェア80%に向けた増産体制の構築に取り組んできました。2018年に山形工場の第二固形製剤棟を稼働させ、大阪工場・岡山工場と合わせ2021年度には年間120億錠の生産能力を当初計画通りに確保しました。しかし、業界全体として安定供給が果たせないという異常事態が起こり、将来的な計画であった山形工場第二固形製剤棟への追加設備投資を前倒しで行い、プラス20億錠となる140億錠の生産体制を整え、さらに同工場 第三固形製剤棟を2023年11月に完成させ、2024年4月より稼働を開始しました。2026年度には3工場の年間生産能力175億錠が実現する予定です。山形工場 第二無菌製剤棟の建設により、液剤や凍結乾燥製剤の生産能力の増強も行い、さらなるハード面の拡充を図っています。

ソフト面においては、生産効率向上のための自動化、省人化の設備およびシステムの導入などスマートファクトリー化も進めています。自動化による生産効率や増産体制を強化するだけでなく、工場で働く人々の負担を減らし、働き方を改善・向上させることも大きな目的です。スピーディかつ正確な作業は機械やAIが担い、人はさらなる効率化や企画・アイデアを考え、また高度な判断を担うなど、働きがいを持って仕事に臨める環境へと進化させていきます。こうした施策は拡張した山形工場を皮切りに、随時岡山工場や大阪工場への展開を進めていきます。

製造管理および品質保証体制においては、全ての工場でGMP三原則を遵守した手順で製造し、常態的な教育訓練により、一人ひとりが品質に対する高い意識を持って働いています。より厳しい品質保証体制を構築するために国際基準のPIC/S GMPやICHガイドラインも積極的に取り入れ、人為的な誤りを徹底排除する体制を構築しています。また、安定供給体制の維持・強化のため、原薬の複数購買や製造所の監査等を推進し、グループ全体として原薬製造から製剤製造、物流、販売に至るまで、ガバナンス強化とコンプライアンスの浸透に向けた取り組みを行っています。あわせて、すでに運用しているMES( 製造実行管理システム)やLIMS(試験情報管理システム)に加えて、マスターコントロール社のQMS(品質管理マネジメントシステム)を導入し、製造管理・品質管理のさらなる向上を目指します。

市場動向や将来の見通しを常に全社で共有し、社会インフラとしての役割を果たすため、安定供給や品質管理を自分たちが中心に担うという大きな使命感を持ってこれからも取り組んでいきたいと考えています。

「東和品質」で生まれるシナジー
効果で多彩なイノベーション創出を
目指す

グループ全社が力を合わせて安定供給に取り組む中、新たなシナジー効果も生まれています。当社の連結子会社であるTowa Pharma International Holdings, S.L.傘下のTowa Pharmaceutical Europe, S.L.がスペインで運営するマルトレージャス工場において、日本で販売するエソメプラゾールカプセル10mg/20mg「トーワ」の製造を開始しています。同工場はEMA(欧州医薬品庁)やFDA(アメリカ食品医薬品局)の基準に準拠した製造拠点で、2024年2月に新たに日本国内向けの製造販売承認を取得しました。大型造粒機を用いた大量かつ効率的な生産力を強みに欧米の市場に製品を提供してきた同工場が、日本市場に向けた製品を製造することで、グループとしての生産バックアップ体制だけでなく、現在課題となっている国内の安定供給へ向けて大きく前進しています。

また、グループ各社の技術を活かした共同開発などさらなる連携強化を進めています。シナジー効果が期待できる分野としては、グループ会社である三生医薬株式会社およびグリーンカプス製薬株式会社が有する最先端の製剤技術・カプセル技術があります。三生医薬株式会社には原薬の弱点をカバーした処方の多様性により、どんな成分でも配合できる可能性を秘めている「ユニオーブ®」という独自技術や、製品設計の自由度が高くつなぎ目なしのシームレスカプセルなどに強みがあり、その製造キャパシティの増強も図っています。こうした多彩な技術と東和薬品の製剤技術を融合する研究開発を進めており、イノベーション創出へつなげていくことを目指しています。

新たな製品開発や研究は全て「東和品質」に基づいて行われます。「東和品質」とは、世の中に要望・必要とされ、当社グループが持つ最新の技術で改良・改善を重ね続けることで、その時代の最新・最高のものに更新する製品づくりのことを指します。例えば、発がん性が懸念されているニトロソアミン類の生成メカニズム解明や分析法の開発に積極的に取り組んでおり、その研究成果は米国化学会学術誌『ACS Omega』に掲載されました。この成果は製剤等へのニトロソアミン類混入リスク評価および品質向上に大いに貢献すると期待されています。

他にも、水なしでも口の中で溶けて飲みやすいOD錠(口腔内崩壊錠)や、苦みをマスキングする技術、医師や薬剤師が判別しやすい薬剤印字等があります。当社グループの付加価値製剤技術の代表的なものとして「RACTAB(ラクタブ)」技術が挙げられますが、これは服用しやすい崩壊性と、普通の錠剤同様に取り扱える硬さを両立した独自の製剤技術です。ニトロソアミン類の生成メカニズム解明や「東和品質」が有する付加価値は、世界の人々の悩みや医療課題の解決に貢献するものと自負しています。

当社グループのグローバル化の目的も、付加価値の高い東和薬品の製品を広く世界に提供することです。各国や地域では医薬品等の品質、有効性および安全性の確保等に関する法律が異なり、その基準や考え方も常に更新されていきますが、そうした世界の情勢が共有できることも重要なシナジー効果であり、新興国などのこれから需要増が期待される新たな市場に対し、イノベーション創出で貢献するチャンスも広がっています。

「新たなステージに向けた挑戦」を
掲げ第6期中期経営計画スタート

当社グループは2024年度に「第6期中期経営計画2024-2026 PROACTIVE Ⅲ」をスタートさせました。

国内ジェネリック医薬品事業の新たなステージに向けた進化
新規市場・新規事業の基盤確立とグループシナジーの実現
持続的成長を支えるサステナビリティ経営の強化と基盤の整備

を基本方針に据えました。

第6期中計はサブタイトルとして「新たなステージに向けた挑戦」を掲げ、グループ全社は、これからの医療体制に適応した健康関連事業の創出に積極的に取り組み、「『健康長寿社会』に対応した、医療から未病のケア・予防までカバーする未来への実現」を重要課題として認識し、「人々の健康に貢献する」という企業理念に基づき、新たな技術の獲得および新しい知見や技術との融合を図ります。これからの医療体制に適応した健康関連事業の創出に積極的に取り組んでまいります。

「新たなステージ向けた挑戦」の鍵を握るのはイノベーションの創出です。当社グループでは、「製品総合力No.1の製品づくり」による技術イノベーションと製品価値の創出に取り組み、「地産地消」のモノづくりを理想に掲げています。その理想に一歩ずつ近づいているのが、安全性の高い連続フロー精密合成技術の研究開発です。原薬製造において環境に優しい次世代の製法となるフロー合成は、環境負荷の低減(グリーンケミストリー)やコンパクトな自動工場でできることから、日本の産業競争力向上に大きく貢献する技術です。現在、中間体の合成において複数の候補品をもとに開発を進めていますが、その品目を増やすと同時に、出発物質から合成できる技術を確立することを目指しています。この高度な技術力を国内で育て、それを支える人材を育てることで、国が政策として進めるサプライチェーンの強靭化や国力向上にも大きく貢献できると考えています。

技術イノベーションには他にも、苦味がなくて飲みやすい薬を開発するための原薬球形晶析を含む分子制御技術に関する研究や前述のニトロソアミン問題への挑戦、iPS創薬によるドラッグ・リポジショニングなど、患者さんへの付加価値の提供や社会課題への挑戦、グループ会社のシナジーを含めた新規技術の追求を推進していきます。原薬球形晶析を含む分子制御技術に関しては、数年後に上市できることを目指しています。ドラッグ・リポジショニングは、安全性と体内動態が実績によって既に確認されている既存薬から、新たな薬効を見つけ出し、実用化につなげていこうという研究で、iPS細胞による候補物質の選定を終え、臨床試験を進めています。新薬開発で最も時間と費用がかかる安全性の臨床データがすでに担保されているため、有効性が確認できれば効率良く市場に多彩な薬を提供することが可能となります。薬価の関係から新薬メーカーが消極的なこの分野は、ジェネリック医薬品メーカーが果たす役割は大きいと考えています。

医療から未病の予防までカバーする
未来の実現へ向けて

「『健康長寿社会』に対応した、医療から未病のケア・予防までカバーする未来への実現」という重要課題への挑戦として展開を進める新たな健康関連事業では、TIS株式会社が提供するクラウド型地域医療情報連携サービス「ヘルスケアパスポート」を協業販売し、国が2025年を目途に構築を目指す「地域包括ケアシステム」の実現に貢献しています。

「地域包括ケアシステム」は、ビッグデータ等の先端技術により医療従事者と生活者が容易に情報共有し、医療従事者の適切で効率的な診療・介護や、生活者の健康増進を可能にするプラットフォームづくり(病院・薬局・介護施設等の各施設におけるデータの連携や共有)を基本としています。

当社は、個人の健康情報(PHR:パーソナル・ヘルス・レコード)や電子医療健康記録(EHR:エレクトリック・ヘルス・レコード)を活用した「ヘルスケアパスポート」を中心に「エクサ・ポート」構想の実現に取り組んでいます。これは、病気になる前(未病)の状態の時にデータを分析して食事や運動などのサポート情報を提供するもので、健康維持・増進のための製品やサービスのラインナップも充実させていきます。特に超高齢化に突入した社会において大きな課題は、一人ひとりに寄り添った健康サポートです。老化の不安に対するアドバイスなども重要になってくるはずです。高齢者が可能な限り住み慣れた地域で自分らしい暮らしを続けることができる地域包括ケアシステムの実現に大きく寄与したいと考えています。

持続的成長を支えるのは働きがいのある環境づくりと人財育成

第6期中計の基本方針のひとつである「持続的成長を支えるサステナビリティ経営の強化と基盤の整備」については、「働きがいのある環境づくりと人財育成」が重要な源泉です。社員一人ひとりが企業理念のもとに働きがいを感じながら事業を展開することで社会の変化を感じ取り、新たな価値を生み出すことができます。これからDX化やAI(人工知能)が仕事に浸透していく中、作業の多くはデジタル技術に置き換わります。人の役割は働きがいを感じながら自らと会社を成長させることです。

生産現場ではそれをサポートする仕組みとして「業務フロー」「エキスパート制度」を設けています。「業務フロー」は製品ごとの一連の業務の流れをデータ化しタブレットで常に確認することで、社員一人ひとりが自らの役割や発生しやすいミスが明確になり、効率化や改善点を自ら考えるようになる仕組みです。「エキスパート制度」は作業や機械を熟知し、自ら効率化を進めて高い生産性を持つ社員を評価する制度です。どちらの施策においても、全ての社員に対し原価を意識することを教育しています。原価に対する自らの生産性を考えて働くことでモチベーションが明確になり、会社もそれを公正に評価することができます。常に眼前の目標や自らの将来のキャリアを見据え、その実現に向けて主体的・計画的に行動することが働きがい向上につながります。

また、地球環境や社会への配慮を強化したサステナブル経営を推進するため、2022年4月に環境安全管理部を新設し、グループ全体の環境と安全を一体的に管理運営し、社員および地域社会の環境と安全のさらなる向上を目指しています。気候変動が自社の事業活動や収益等に与える影響については、TCFDの提言に基づき自社事業活動を対象としたシナリオ分析や温暖化ガス排出量削減施策の検討を進めながら情報開示に努めてまいります。こうした取り組みを「グリーン・サステナブル・ケミストリー」産業の立ち上げにつなげ、日本の産業競争力の向上にも貢献したいと考えています。

モンゴルの人々に「こころの笑顔」を地域産業創出への挑戦「百年計画」

当社グループの根本的な考え方、あるべき姿の基本は「私達はこころの笑顔を大切にします」という当社グループの企業理念に基づきます。「こころの笑顔」とは、身体が健やかで、こころが満ち足りた状態でいられることにより、心底(しんそこ)から湧き上がるよろこびが笑顔としてあふれてくる様(さま)を表します。あるべき姿は「いつの時代でも、どの地域でも、その地域に住んでいる人々に必要とされ、必要とされる製品・サービスを提供する会社であり続ける」ことです。

その理念をグループとして体現するシンボリックな取り組みとして、「東和薬品グループ百年計画」があります。そのひとつとして「モンゴルでの甘草(かんぞう)栽培」への挑戦を2014年より始動しています。モンゴルでは有限である地下資源の採掘による国土の砂漠化やそれによる気候変動が大きな課題となっていますが、それが国の経済を支える重要な産業でもあります。

そこで、当社はモンゴルに自生し、食品、化粧品だけでなく医薬品の原料としても使用視される「甘草(かんぞう)」に着目しました。計画的に甘草を栽培し、収穫物を販売し、その種で新たに甘草を栽培するという無限の緑の資源を活用することができれば、持続可能な開発としてひとつの産業が発展し、モンゴルの人々の暮らしを向上させ、「こころの笑顔」を増やすことにつながるのではないかと考えました。また、甘草栽培によるCO2削減や土地の砂漠化抑制、黄砂の大気拡散抑制にも貢献できると考えています。

モンゴルでの栽培地の様子

甘草の育成状況(2024年8月)

牧草栽培(圃場以外の活用)

2014年から現地の状況把握をスタートさせ、2017年にモンゴル東部のヘンティー県ヘルレン郡に約1,000ヘクタールの土地を確保しました。コロナ禍に取り組みが停滞したものの、2021年9月には甘草の苗600個を試験的に植え付け、2023年にはヘルレン郡長からの賛同も得て、契約を締結した100人の地域住民の皆さんに、試験栽培として甘草の育苗や栽培に積極的に参加いただき、地域と一緒になって活動を進めています。この取り組みは地域住民の方からも大変ご好評をいただいている状況です。現在は苗を土地の一部に移植し、発芽や生育の状況を観測しています。甘草は施肥から収穫までが約7年周期と長く、広大な土地での栽培も一筋縄ではいかないため、段階的に栽培面積を拡大し収穫できるように計画しています。現在空いている土地には、モンゴルの厳冬に備えた家畜の餌にするための牧草を植えるなど、広大な土地を有効に活用しています。

今後のマイルストーンとしては、2026年に本格的な栽培をスタートさせ、当社の創業80周年の2031年には甘草販売の開始、同100周年の2051年に濃縮エキスを加工する工場の稼働開始を目指しています。この事業がモンゴル国内で自立経営できるよう注力し、将来的に原薬への加工や輸出といった事業領域の拡大につながれば、地域社会や地域経済の活性化として大きな意義を持つ取り組みになると期待しています。グループ全社が、人々のこころの笑顔のために、地域や時代を超えて、人々に必要とされる製品・サービスを提供する会社であり続けるための象徴として、この事業を続けていきたいと考えています。

当社グループは多彩な健康関連事業を通じて人々の「こころの笑顔」をかなえられるよう、これからも日本および世界中に展開していくことに努めてまいります。引き続き皆さまのご支援を賜りますよう心よりお願い申し上げます。

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